ホームレス夜景
 

 

 東京都がホームレス自立支援法に基づく「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第2次)」を10月15日発表しました。(リンクはこちら)

 これに先立ち、都は9月25日「素案」を発表、パブリックコメントを都民から集め最終的に確定したものです。

 東京都の実施計画はどちらかと云えば形式的なもので、既定の路線をそのまま文書にしただけで、これによって情勢に大きな変化があるとは思えません。せめて今の変化に対応した方向性が示されるべきと考えていましたが、残念な事にその事はほとんど記載されておりません。「走りながら考える東京都」は一体どこへ走り抜けようとしているのか?今後もチェックをしていきたいと思います。

 以下、連絡会のパブリックコメントを全文そのまま転載します。



ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第2次)素案についての意見

 日頃から都内路上生活者に対する自立の支援に尽力を頂き感謝しております。

 さて、今般発表された「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第2次)素案」について率直な意見を申し述べさせて頂きます。
 今回の「計画案」は、「計画の策定に当たって」にあるよう、『緊急一時保護機能と自立支援機能を併せ持つ「新型自立支援センター」を計画的に設置すること、「ホームレス地域生活移行支援事業」における借上げ住居の成果を自立支援センターの「自立支援住宅」へ発展させること等を柱』とするとされています。
 現場で日々活動をしている私たちの情報や実感からすると、前提となっている「東京都におけるホームレスの現状」の内容(とりわけ概数値の推移)については疑義がありますが、それはさて置き、東京におけるホームレス問題の解決に向けて、本当に今回のこの「二つの柱」で有効であるのかを建設的に提言していきたいと思います。
 
 まず、「新型自立支援センター」の設置ではどのような変化が生じるでしょうか?

 「新型自立支援センター」への再構築の根拠は「自立支援システムの総合メニュー化」と「効率的な事業展開」の二つとされ、そのため都内5箇所の緊急一時保護センター施設を段階的に廃止し、緊急一時保護部門は新型自立支援センターに全て統合させようという計画です。
 具体的には「平成19年8月 路上生活者対策事業再構築について報告書」で指摘されているよう『現システムはシェルター機能とアセスメント機能を有する緊急一時保護施設と常用雇用中心の就労自立を目指す自立支援施設の2本立てになっており、就労自立を目指す利用者は、2種の施設を移動しながら通算最長6ヶ月の施設生活を送っている。』『両施設は、それぞれの役割に従って運営しており、緊急一時保護センターでは就労が制限され、また、自立支援センターからの就労退所等へのアフターケアと緊急一時保護センター併設の巡回相談センターによる訪問相談との連携も不十分であるなど、必ずしも、一貫的・継続的な体制になっているとはいえない』と、その根拠は実に明快に指摘されており、就労支援に特化した文字通りのセンターとしての機能を「新型自立支援センター」に設け、短期間で就労自立を目指せる総合的なシステムに改編すると云う事にあるだろうと考えます。
 
 野宿歴が浅い、年齢も相対的に低い、技能習得が既になされていて再教育の必要がない、このような就労に結びつき易い対象者は、「就労支援に特化された自立支援プログラム」に適しており、また「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれにある者」も含め、昨年秋以降「派遣労働者の解雇・雇い止め」等の社会経済状況の変化の末にホームレス化しつつある人々にもストレートに適合し得るシステムとなり得るでしょう。

 つまり、この「新型自立支援センター」は現状のホームレスの中ではかなりハードルが高い(云うなればホームレス内のエリート層を対象とした)設定と施設とシステムにならざるを得ないと云う事です。
 いやいやそんな事は書いていないとの反論もあるでしょう。が、再構築の議論の中で効率的な施設運営を掲げた以上、ホームレスであれば誰でも入所可能な施設にはとうていならないし、なってはいけないと思うのであります。
 もちろん、そのような層が現状でも少なからず居り、また若年層を含め今後増加する可能性が高い事から、短期合宿型の就労特化型施設として総合メニューを設けた「新型自立支援センター」は必要性が今後更に高まるでしょうし、実際そのように運営されると云うのであれば私たちも引き続き入所の協力をしてまいりたいと思います。

 しかしながら、そのような対象者ばかりではない、と言う事も私たちは知っています。
 都市雑業で生計が成り立ってしまっている者、長期の野宿化の末、就労意欲が減退してしまった者、無技能者や中高年者など、いわゆる就職困難層に部類してしまう、つまりは「短期では就労自立が難しい者」などはどのような支援をすれば良いのでしょうか?この点が今回の「計画案」に決定的に欠けている視点です。
 これらの人々も含めて「新型自立支援センター」で対応できるのしょうか。「新型自立支援センター」の導入部分は一ブロックでたったの25名です。対象者は誰でも良いとなれば、導入部分で大混乱となり、アセスメント機能も含めて崩壊し、かつて経験した(緊急一時保護センターが設置された頃)ような「糞詰まり」(下品な表現で申し訳ありませんが)となってしまうでしょう。
 現行の緊急一時保護センターでさえ待機待ち状態が常態化している中、それよりも入り口部分が狭い「新型自立支援センター」なら、1年待ち、2年待ちもあり得なくはありません。
 現行の緊急一時保護センターが出来た頃「一度入所したら二度と路上に戻さない」と豪語なされた特人厚の担当者がおりましたが、実際始まってみれば、シェルター部門は行ったり来たり、自立支援センターもまた行ったり来たり、生活保護でさえ行ったり来たりと、路上と施設の循環構造の中でしか路上の人々は生きられませんでした。新型自立支援センターも、プラチナチケットの末にようやく入れたとしても、最初のアセスメントで「短期の就労が難しい」とされたなら、生活保護行政でさえ施設不足が慢性化している中では再び路上に出るしか選択肢がないと思われます。さすれば同じ構造が繰り返されるだけで、ホームレス問題の解決どころか、ホームレス問題の固定化にしかなりません。
 「新型自立支援システム」の問題の立て方で、決定的に欠けているのが、「短期では就労自立が難しい者」への配慮と、圧倒的な不足が予想される導入部分、すなわちシェルター部門をどう組み立てて行くかであります。この事は再三に亘り東京都に要望をし続けて来た事ですが、問題意識が薄いばかりに、一向に解決されていない問題です。

 少なくとも旧来のステップアップ方式(東京方式と呼ばれていたもの)は、それらの人々を一定包摂しながら設計されたと記憶しています。アセスメントや健康チェック、就労意欲の喚起に一定の時間をかけ、その後、本格的な就労支援をかけ、そしてそれでも就労が難しい者にはアフターケアをしっかりと施すと言うのが、この方式の「目玉」であったと思われます。
 これを一端白紙に戻してと言うのであれば、そこには「総括」が必要なのですが、それも試みず、旧来の主張との整合性がどのようにあるのかすら示されていません。ここの整理がほとんどされていない事から、いかにも「新型自立支援システム」の内部にステップアップ論が配置されているような言い回しとなっていますが、実際上の位置づけでは「新型自立支援システム」(それに付随する自立支援住宅があろうがなかろうが)は直線一本のワンステップ勝負の施設です。ワンステップの中にバリエーションがあると云うだけの話しで、そのステージは「短期に就労自立が可能な者」の上に聳え立っています。

 再構築方針が都区合意で決まってしまったことだから動かせられないと云うのであれば、それはそれでも構いません。しかし、それに付加するものを新設していかなければ、「短期で就労が可能な者」だけ優遇され、そうでない者は路上に固定化されると云う構造が固定化してしまいます。

 それでは、素案のどこをどう直せば良いかと言えば、
 「より多くのホームレスの利用が可能なよう、巡回相談事業と新型自立支援センターの中間に新たな緊急一時保護事業が設置可能かどうかを含め、就労意欲はあるが、短期で就労が不可能と思われる人々を対象とした新たなメニューを開発していく」との一文を挿入した方が宜しいのではないかと思います。
 また、数字が固定化しないようP13 システムの再構築の④の*部分の定員数を削除する、もしくは「当初予定は」とかの表現に変える必要があると思われます。

 さて、次の柱である『ホームレス地域生活移行支援事業」における借上げ住居の成果を自立支援センターの「自立支援住宅」へ発展させること』でありますが、そもそも地域生活移行支援事業は自立支援システムだけでは対応が困難な者のために開発された手法(これまた東京方式)ですが、この事業を終結させたとしても、「自立支援システムだけでは対応が困難な者」はいなくなったのかと言えば、決してそうではありません。おそらく概数調査で出た数字は、テント等固定化されたホームレスの数をストレートに反映されている事からテントだけでも未だ1000を超える数があります。
 しかし、「借上げ住居の成果を自立支援住宅に発展させる」とはいかなる事か?確かに借上げ住居と云うノウハウだけは発展は可能です。生活サポート、就労サポートなどの支援方法も発展は可能です。しかし、それはあくまで手法でしかなく、「自立支援システムだけでは対応が困難な者」への更なるアプローチとしての発展ではまったくありません。
 この部分は「計画案」では「施設入所者のうち、就労困難、自立困難と判断され、自立支援事業に移行できない層については、厚生関係施設等の活用や民間宿泊所等と連携する仕組みの検討が必要です」と生活保護行政にお任せすると云う安易な文言を鏤めているだけです。
 また、繰り返しになりますが、それならば、一ブロック25名の枠の中にこれらの人々がそう簡単に入り得るのでしょうか。また、入り得たとしても、就労不可の疾病者や高齢者は除き、ある程度の時間の支援があれば就労可能な層、また半福祉、半就労的スタイルであれば生活が可能な人々の層は、自立支援の側からは何もせず、生活保護行政に丸投げしてしまうのが自立支援を謳う実施計画として正しいのでしょうか?
 「路上生活者対策事業再構築について報告書」では、「生活保護を利用せずに地域における住まいが確保できるような家賃補助制度の創設や生活保護の「住宅扶助単給」の可否について検討を進める」と、この「計画案」よりも進んだ姿勢を見せていますが、少なくともこう云うのを「発展」と云うのではないでしょうか。
 最初に「施設ありき」と云う発想ではなく、最初から「アパートに住める」と云うアプローチが、地域生活移行支援事業に多くの希望者が殺到した一つの原因です。しかしながら、この「計画案」では、それもこれも「施設」に入れて、そこからアセスをし、別の方法を提示すると云う、ある意味、「自立支援システムだけでは対応が困難な者」から否定された旧来的手法です。これでは発展どころか後退にしかなりません。
 同じアパートだからと、位置づけがまるで違う「地域生活移行支援事業の借上げアパート」と「新型自立支援センターに付随する借上げアパート」を同一視し、論じる手法はあまり褒められたものではありません。論理破綻以前の問題だと言えます。

 それでは、素案のどこをどう直せば良いかと言えば、 
 P20の今後の方向性の「○新型自立支援センターの計画的増設」以下をすべて削除し、少なくとも都区で合意した「生活保護を利用せずに地域における住まいが確保できるような家賃補助制度の創設や生活保護の「住宅扶助単給」の可否について検討を進める」もしくは「国の住宅手当緊急特別措置事業を活用し」等の文言をここでは述べるべきだと考えます。

 このように、今回の「計画案」の「二本柱」は、東京のホームレス問題の解決のためには不十分なものです。

 ならば「二本柱等」の「等」の部分に期待するしかありませんが、その点も今回の「計画案」では明確化されていません。

 私たちは、この間、応急援護部分の施策の拡充等、施策の導入部分での施策の整理の必要性を訴えて来ました。巡回相談事業が実質的に区民の苦情処理機能しか持たず、当事者の自立支援に向けての相談機能として、まったく不足している事等を指摘して来ました。
 「計画案」ではP28の「(5)生活に関する相談・指導」p30の「(6)緊急援助及び生活保護」に係る部分でありますが、ここでは「必要に応じ応急援護も実施していきます」「巡回相談を実施していきます」とその内容はどこにも見当たらず、「夜間・休日を含めた巡回相談体制の強化」と旧来から実施されている生活保護制度との連携が謳われているに過ぎません。

 既に新宿区では、拠点相談事業が開始され、または緊急一時保護事業や、自立支援ホーム事業なども拠点相談を軸に展開され、更に、巡回相談機能に付随した宿泊事業の検討もなされようとしています。また、民間団体においても炊き出し等と連携しながら民間アパートを活用したシェルター的施設の設置なども実験的に行われています。これらの特別区、または民間の実績をどのように都区共同事業に昇華させて、スタンダードな仕組みにしていくのかが真剣に問われている段階であると言うのに、ほとんど何も変わらない「計画案」では、実際に路上で生活せざるを得ない人々の痛みをどのように緩和させていくのかがまるで見えて来ません。

 また、p22「(2)就業機会の確保」においても、旧来の常用雇用一本槍の発想に貫かれており、長期高齢化した就職困難層の人々の就労自立のために必要な施策はどこにもなく、この部分も「短期では就労自立が難しい者」への配慮がまるで見られません。

 ちなみに今般政権与党となった民主党のマニュフェストにはこのように書かれています。「生活保護制度に依存することなく、公営住宅等の活用による住居の確保、NPO等による就労機会の提供拡大、健康の保持等によって、ホームレスが自立できる環境を整備します。」と。もちろんこれには内容がほとんどありませんが、「生活保護制度に依存することなく」の部分をどのように考えるのか?少なくとも社会が考え得る可能な限りの自立支援策を講じていくこそが肝要であると言う意思が読み取れます。そして、それは「ホームレス自立支援法」の基本的な考え方であろうと思います。
 いかにして「東京のホームレス問題の解決」を、この間試行錯誤をしてきた「東京方式」を更に発展させ、若年層から高齢者層まで含め自分の足でこの社会に復帰させて行くのか?その答えは幾多の経験の中に存在すると言うのに、その事に気づかず、発展させるべき内容すら見失ってしまった感のある東京都に私たちは大変大きな危惧を抱いています。
 確かに政権交代をしたばかりでもあり、また景気の動向も不安定であり、この時期に実施計画を大幅に改定するには大変勇気のいる事でしょう。そのため確定した方針だけを書かざるを得なかった事情も察します。しかしながら、今後の東京都のホームレス対策の方向性の基本にかかわる文書だけに、確定方針の羅列だけでは納得しがたいものがあります。

 もちろん白紙に戻す時間的余裕はないでしょうし、現状でこれ以上の事を明確にするおそらく意思もないと考えます。けれども、この「計画案」に欠けている部分は、今後議論を活性させ、都区そして民間団体との合意を得た上で「追加の計画」として順次公表し実施して頂きたく存じます。

 引き続き「東京のホームレス問題の解決」のため、初心を忘れずまい進されることを望みます。

 (乱筆乱文をお許し下さい)敬具

新宿連絡会 代表 笠井和明
東京都新宿区高田馬場2-6-10関ビル106号
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