路上生活者対策に関する要望書

東京都福祉保健局 生活福祉部長
路上生活者対策事業運営協議会長 殿

 

新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
                              池袋野宿者連絡会

 

2009年4月27日

 

   平素から路上生活者対策の推進にご尽力を頂き感謝しております。
 「米国発の緊急危機」を発端にした世界的な不況局面の中、我が国においても昨年来から経済指標、雇用指標が悪化を続け、非正規若年雇用者の諸問題がこぞってマスコミに取り沙汰され続けている中、東京都福祉保健局においてもはや忘れられた存在になるかも知れませんが、好景気の中、大きな対策を続けてもなお路上での生活を余儀なくされている人々の諸問題が、今次の不況局面の中、極めて深刻な事態に突入している事に再び思いを起して頂きたく存じます。
 東京都及び23区が共同実施した「ホームレス地域生活移行支援事業」以降、公園、河川敷等、昼間目に見えやすい路上生活者の存在は確かに概数調査数に現われているよう減少を続けていますが、他方でこの事業の対象から外された来た、駅ターミナル、繁華街等でのいわゆる流動型で存在する路上生活者の方々は私たちの独自調査においても昨年の景気減退をメルクマールに増加を続けております。定住層と流動層の関連と、定住層のみの施策が大きく動く事に対する施策上のバランスの件は、かつてより私たちが指摘し続けて来た事でありますが、その危惧通りここ数年「やり残した」課題が、今日の不況局面により、より一層の諸矛盾として露呈して来たと言えるでしょう。
 具体的に言うならば、アルミ缶引き取り価格の暴落など雑収入の減少、山谷、高田馬場の「寄せ場」を含めた建築日雇市場の縮小、社会問題化された派遣業の縮小、またその反動による労務管理、身元確認の強化による工場、サービス業への就労アクセスの減少。つまりは行政に頼らず路上生活者がこれまで辛うじて生きて来られた仕事が大幅に減少、縮小している事による激変が第一とすれば、第二の激変は、これまで路上生活者対策として細々と実施されて来た諸施策が路上生活者ではなく、路上生活者予備軍の人々にも活用されることにより、自立支援施設のキャパ不足が露呈し、路上生活者の人々が気軽に活用できない施策へと敷居が再び上がってしまった事です。また、これとも連動し、東京都や特別区が政府の補助金等により実施する筈の雇用対策の中に路上生活者がすっぽりと抜け落ちてしまい、就職困難層としての路上生活者の存在すら意識されていない事です。
 今次の経済危機に対応した路上生活者に対する有効な雇用施策が打ち出せないと云う事は、これまで自力で仕事をし、そこそこの暮らしを路上生活ながらも続けられて来た人々の就労への意欲すら減退させ、それらの人々を民間団体の炊出しや福祉に依存させる事にしかつながりません。
 「ホームレス自立支援法」にある「ホームレスの自立の支援等に関する施策については、ホームレスの自立のためには就業の機会が確保されることが最も重要であることに留意しつつ、前項の目標に従って総合的に推進されなければならない。」の前提が欠落したならば、路上生活者の生活水準は極端に低くなり、その生活苦は極限にまで達してしまうのは当然と云えば当然かも知れません。

 思えば昨年、私たちが提案した要望は何一つ実現されなかった一年でありました。それどころか、路上生活者対策は「何もなかった一年」でした。
 私たちが訴え続けて来た「シャェルター」「巡回相談」等「入り口問題」は一体どこが改善されたのでしょうか。巡回相談員は、相も変わらず何の権限もない中で、入れもしない緊急一時保護センターの宣伝をし続けて来ただけであります。
 「効率化」の議論はどうだったのでしょうか。「利権」や「膿」の問題は私たちが指摘して来たよう、とある法人で露呈しましたが、一体どうやって解決したのでしょうか?「臭いものには蓋」をしただけなのではないでしょうか。縦割り施策を横断的な施策にどのように改変されたのでしょうか?
 また、自立支援施策はどのように地域生活移行支援事業の「良い所を吸収」されたのでしょうか?通所型の自立支援センターを私たちは要望し続けてきましたが、それの具体的な形である筈の自立支援住宅を自立支援センター機能に付け加えたからと言って何がどう改善されたのでしょうか?
 
 私たちが実施している炊出しには、今も450名を超える人々が食や衣類を求めて集まっています。新宿区内を深夜パトロールに回れば、同じく600名を超える人々がダンボールの上に蹲り、夜が明けるのをじっと待ち続けています。そこには「ホームレスになりそうだ」とテレビ等で声高に叫ぶような若者の姿はもちろんありません。この国を支え続けてきた中高年の男たちです。彼らは自身に振りかかった「不幸」を振り切り、黙って野宿と言う過酷な生活を選択しました。どんなに厳しかろうが、苦しかろうが、自殺と云う敗北の道を採らず、生き永らえる道を選択したのです。
 私たちが、そして社会が支えなければならないのは誰なのか?マスコミを含めた酔狂の中で、私たちはつくづくその事を考えます。
 若いと云うだけで採用されやすい人々と、年だと云うだけで採用され難い人々。若いと云うだけで信用されやすい人々と、年だけと云うだけで信用されない人々。もちろん、その中には二律背反では捉えられない問題が含まれていたとしても、何故こうにも、社会は野宿していると云うだけで人を虫けらのように思うのか、何故こうも社会は中高年と云うだけで仕事を分けようともしないのか?無認可老人ホーム「たまゆら」で焼死した老人達に私たちは自身の未来を投影します。社会への再参画と云う言葉のむなしさを感じます。

 私たちは決して救済されようとは思ってはいません。私たちは自分の足で立ち、そして前へ(それがたとえ地獄であろうとも)進みたいだけです。そして、そのため少しの間だけでも、背中を押してもらう社会的な仕組みが欲しいだけです。

 自立支援がその目的とする安定した就労への道が、今次の雇用環境の中で効果ある施策が打ち出せないとなれば、地域生活移行支援事業のようある程度の期間を設けた低家賃住宅制度が、雇用対策の補完になる事はすでに実例にて証明されている事です。それは単なる住宅政策だけではなく、住所地を設定し、身分証明、連絡先など「社会的信用」を得た上でようやく私たちは、一般の失業者と同様の「身分」になれるのであり、就労に向けての準備支援としての位置も有しています。
 地域生活移行支援事業利用者が生活保護受給者を増やしてしまったから「失敗」「お荷物」との都庁内部の「批判」が今も生きているのであれば、ここ数ヶ月、士業の圧力(政治的もしくはビジネス的)があれば稼働年齢層をほぼ無条件で生活保護としている福祉事務所の運用はどのように説明可能なのか。それとも生活保護制度の中において就労自立と云う自立支援の目標がより可能であると考えているのか。若年派遣労働者は生活保護で構わないが、中高年路上生活者の生活保護受給者は増えてもらっては困るとでも云うのであろうか。ダブルスタンダードもほどほどにしてもらいたいものであります。
 路上生活者対策は最も困難な対策であるとの認識は、おそらくこの15年来有効な施策を放り投げて来た都庁の実感でしょうが、困難であるから小さな施策をそこそこ続けていれば良いと、もし考えているのであれば、大きな間違いです。私たちが15年来、応急援護を主軸に諸活動を展開してきたのは、この路上こそが出発点であると考えたからであります。ここに暮らす人々の生活をより良きものにしなければ、それこそ自立支援も口先だけの合言葉にしかなりません。もちろんその部分は民間丸投げでも構いません。が、路上の人々が必要としている施策を見いだし、そして打ち出さなければ路上はいつまで経ってもこのままです。このままの状態を放置したままオリンピック誘致をやると云う都庁の姿は、実に滑稽な姿にしか私たちには見えません。

 この大事な一年の中、何らの路上生活者対策上の成果を見いだせなかった皆様方に私たちは重ね重ね昨年と同様の要望、そして今次の経済危機に対応した施策実施の要望をしたく存じます。その胡坐をかいている姿勢こそが問われているのであると云う事を強く訴えたく存じます。

<要望事項>
1、都内路上生活者に対し、臨時、軽易な仕事を直接提供すること
2、都内路上生活者の応急援護事業を強化すること。必要であれば山谷対策施策を路上生 
  活者対策施策と統合し、資源の活用を最大限行うこと
3、巡回相談に権限を与えること等をし、自立支援事業に路上生活者を優先的に入所させ
  ること
4、地域生活移行支援事業を再度実施する、または、民間借上げアパート提供等による通
  所型の自立支援システムを大規模に実施すること
5、長期化、高齢化し就労困難に陥った路上生活者が優先的に福祉事務所窓口での対応が
  されるようすること
6、「ホームレス自立支援法」に基づく東京都実施計画策定に当たって、「効率化」あり 
  きの姿勢を改め、現場の声をしっかりと聞き、現状のニーズに沿った計画を策定する
  こと

以上