路上生活者対策に関する要望書

東京都福祉保健局 生活福祉部長
路上生活者対策事業運営協議会長 殿

 

新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
                              池袋野宿者連絡会

 

2010年4月28日


 平素から路上生活者対策の推進にご尽力頂き感謝しております。

 深刻な景気悪化の中、本来真っ先に取り組む必要性のある路上生活者対策が遅滞し、多くの路上生活者の人々が路上に放置されている現状を私たちは憂います。
 私たちの独自の調査でも、この冬、新宿区内で598名もの仲間の数が確認され、また聞き取り調査でも60歳以上の方が37.6%に及び、マスコミ等が何の根拠もなく語る「若年層野宿者の増加」とは逆の結果が出ています。
 都の概数調査では、数値的には減少を続けている路上生活者が抱えている諸問題は果たして解決に向かっているのでしょうか?
 「格差」「貧困」と云う政治的な言葉が普遍化する中で、新たな生活困窮者を「発見」する度に、まるで積み木のよう政策の幅は高くなり、増築される分だけ不安定ともなり、結果個々の層が抱える諸問題だけが取り残されてしまっているのではないでしょうか?
 たとえば、「リーマンショック」以降、職を一瞬で失った派遣労働者層の諸課題が社会問題化しましたが、本来労働行政が迅速に対応すべきであった所を、その責務を免除するかのよう、「ホームレス化」させない為との名目で「ホームレスの予防策」の範疇に彼、彼女等を強引に(弥縫策的に)入れてしまった事が、現に路上で暮らさざるを得ない人々への施策の縮小(食い合い/競争激化)につながってしまっています。
 緊急一時保護センター然り、自立支援センター然り、緊急一時宿泊事業然り、生活保護(宿泊所、更生施設)も然り、どの施設においても、本来優先的に入所が必要な人々は少なく、稼働年齢、若年層がその多数を占め続けています。
 社会問題、とりわけ生活困窮者に必要な施策を提供し、自立生活に向けた支援策を講じることは、もちろん否定するものではありません。しかしながら、その場合でも、問題を解明し、ニーズを把握し、また社会的合意の得られる範囲で支援策を講じて行くのが当然であり、何でもかんでもゴッタ煮にし、住居がないからと、今ある特定の制度に押し付けるのは、どう考えても社会政策の手法ではありません。
 緊急事態なのだから仕方がないと云うのであれば、路上で暮らさざるを得ない人々の問題は緊急に解決すべき問題ではないと云うのでしょうか?

 私たちは旧来の福祉施策、また旧来の労働施策のままでは路上生活者が抱えている諸問題は解決が出来ないと判断したからこそ「ホームレス自立支援法」の制定を超党派で求め、それを実現させ、そして新宿と云うこの問題が先鋭的に現われる地で官民の協力体制を築きながら、路上生活者の命を守り、路上生活者が自立をし、また路上生活者が地域の中で安定した生活が営めるよう支援を継続的に行って来ました。
 そして、長年の経験と蓄積で、路上生活者の自立のための手法は既に確立していると云っても過言ではありません。
 『居所を確保し、一定期間生活を下支えをし、生活上の諸問題を解明し、その結果仕事が探せる人々には仕事に関する支援を施し、他方で仕事による自立がすぐには難しい人々には生活上の諸問題の解決を含めた福祉制度を活用した支援策を適用する。且つ、これらを一体的に実施する。』
 「自立支援事業」にしても、「地域生活移行支援事業」にしても、新宿区の独自事業の「自立支援ホーム事業」にしても、昨年末から開始された都の「緊急就労・居住支援事業」にしても、規模等は違えど、同じ手法を採り、実績を残しています。
 
 私たちは都区共同の路上生活者対策はその原点に戻るべきだと強く訴えます。
 現に路上生活を余儀なくさせられている人々へのアプローチを更に強め、施策もまた現に路上生活を余儀なくされている人々を中心とする制度へと位置づけを明確にすべきだと考えます。
 そのために、巡回相談や民間団体等に緊急一時宿泊事業利用に関する権限を新たに付与し、対象者を明確にすると同時に、緊急一時宿泊事業を地域ごと、またブロックごとに設置、増設し、そこを一時的なシェルターとしながら、新型自立支援センター等への移行アセスメントが可能なような仕組みを明確すべきだと考えます。
 また、生活保護関連の民間宿泊所については安易な一律規制論に組みすることなく、対象者の状態、とりわけ介護が必要な高齢者や障害者が地域の中で日常生活を営めるよう、地域福祉の中に民間宿泊所を段階的に位置づけるなどの計画的配置の元、運営されるよう指導すべきだと考えます。
 加えて云うならば、平成19年に発表した「生活保護を変える東京提言」の中の「更生積立金制度」「要保護者早期自立扶助」などの提言実現のため、国に対し硬直的な制度運営を改め、今日の実情に合わせて制度を臨機応変に改変できるよう生活保護法の改正をも含めた提言を大胆に提起する事もまた、都の役割だろうと考えます。

 これらの考えの中、以下の点を重点的に要望致します。

  1. 路上生活者概数調査の方法を「夜間一斉調査」の手法に改め、より路上生活者の実数
    を捕捉すること
  2. 巡回相談機能を施設入所を含めた権限をより強化する事、また民間団体との連携を深
    め一体的な路上への巡回が可能なよう強化すること
  3. 緊急一時宿泊事業を、新型自立支援センター利用者待機、緊急就労・居住支援事業利
    用待機、または他の施策利用の待機場所として設定し、路上生活者が一定数確認される地域、ブロックに重点的に配置すること
  4. 新型自立支援センターへの入所経路を福祉事務所に限定せず、上記の緊急一時宿泊事
    業等からの入所、民間団体等が独自で実施している宿泊所等からの入所など幅広く設定し、自立支援センター機能を必要としている路上の人々が順番でも利用できるよう入所経路についての配慮を行うこと
  5. 新型自立支援センター内のアセスメントの結果、福祉制度での支援が必要と判断され
    た者には、特定機能タイプの宿泊所等へ移行させる事
    また、それに伴い、路上生活者を受け入れる民間宿泊所の質を、一般宿泊タイプから特定機能タイプ(ケア付き住宅)への転換を推進していくこと
  6. 新型自立支援センターでの就労支援は単なるハローワークの追随ではなく、路上生活
    者の特性に合わせた技能訓練の実施や、職業意識啓発を重点的に行い、また臨時軽易な仕事の提供も含め総合的な支援の提供の中、「仕事による社会再参画」への道筋を明確にすること
  7. 新型自立支援センターを経由しても、年齢的な要因により一般就労に就けない者は「更
    生積立金」制度や「要保護者早期自立扶助」制度などを実験的に取り入れるなどし、「福祉に依存させない福祉制度」での地域生活を目指させること
  8. 国に対し、ホームレス自立支援法(時限立法)の延長を申し入れること
  9. 国に対し、住居喪失不安定就労者等稼働年齢若年層への労働行政を中心とする支援を
    自治体ごとに円滑に行えるよう、たとえば若年層用の自立支援センターが設置できるような根拠法の制定及び予算要求をすること

 


以上