路上にも気軽に受けられる無料診療所があってもいいじゃないか。
 連絡会の医療班活動として路上巡回医療相談会と鍼灸相談会を月に一度行なっています(第二日曜日)。
 連絡会医療班は心ある医師、鍼灸師、看護婦、保健婦さんなどの医療専門家ボランティア集団。もちろん路上で手術は出来ませんが、問診や軽い治療はお手のもの。おじさん達の健康管理にとても役立っています。

 医師資格をもった者は残念ながら野宿をしていない。
 バラエティに富む路上だが、流石に医師の現場調達は不可能である。
 病気に苦しんでいる人を目の前にした時、素人判断はとても危険である。こういう場合は普通救急車を呼ぶのであるが、「住所不定」である事が分ってしまうと、一般の病院はなかなか受けてはくれない。ひどい場合は病院をたらい回し、挙げ句に治療もなされず公園に置き去り、なんてこともかつてはよくあった。
 そうでなくとも福祉が紹介する病院は「ヤブ」が多い。結核患者を検査もせず風邪と診断して死亡させたり、骨折患者をレントゲンもとらずに打撲と診断したりと、まあ、かつてあった事件を数えれば切りが無い(かの朝倉病院などもその最悪の例である)。
 そんな事もあり、路上の人々にとってみれば、医者、病院と聞けば「人非人」「極悪非道」「殺されに行く場所」等々と、すこぶる抵抗が強い。そう言えば高田馬場の高台に聳える国立国際医療センターなどは、さながら亡くなった仲間の卒塔婆のように見える。
 それはともかく、路上の人々が抱く医者のイメージを一変させる出来事が新宿で起った。1996年3月。今も新宿の路上で定期的に続けられている連絡会の医療相談会が始まったのである。医師、弁護士、教師、刑務官など「先生」と呼ばれる奴にろくな奴はいないと思っていた人々の前に普段着を着たボランティア医師、看護婦など医療従事者が登場したのである。
 しかも「親切、丁寧、早い、無料!」おまけに「紹介状」まで書いてくれるので、福祉の窓口で「つべこべ」言われる事もなくなり、紹介された病院でもそれを持っていけばプロの医師から紹介された手前、下手な治療が出来なくなる。
 おかげで月に一度の医療相談会は大盛況。福祉事務所も来所者急増で大喜び。早期発見、早期治療に向けての最低限の条件が路上についに整い、不幸な路上死も減り続けている。
 職能を生かした支援活動はかくあるべきと示しているのが路上医療相談会である。仲間が主要に行なっているパトロール、福祉行動と有機的に結びつき、今も連絡会日常活動の屋台骨を支えてくれている。
 「医者の中にはいい奴もいるんだ」と、毎月の医療相談会を楽しみにする仲間も増えた。

(連絡会NEWS 23号より)