「ホームレスの自立の支援策等に関する臨時措置法案」の早期成立を求める10・6中央総決起集会基調

10・6中央総決起集会実行委員会
特定非営利活動法人 釜ケ崎支援機構
釜ヶ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会 (釜ヶ崎反失業連絡会)
新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
池袋野宿者連絡会
神奈川全県夜回り・パトロール交流会
特定非営利活動法人 北九州ホームレス支援機構
野宿者・人権資料センター
特定非営利活動法人 ささしま共生会
三多摩野宿者人権ネットワーク


◎関西事務局 特定非営利活動法人 釜ケ崎支援機構
〒557-0014 大阪市西成区天下茶屋1-30-14 TEL 06-6630-6060
◎関東事務局 野宿者・人権資料センター
       〒160-0015 東京都新宿区大京町3新大京マンション304 
TEL 03-3226-6845


 私達は全国各都市部において、野宿を余儀なくされた人々を支援するため野宿当事者、支援者の力を統合しながら、当座の生活支援(炊出し、医療相談、労働相談、生活相談、夜回り、排除とのたたかいなど)を行ない、また、各地方自治体に対し野宿から脱するための具体的な施策を求めたたかい、かつ、民間団体で出来る可能な限りの就労支援、自立支援活動を様々な領域において行なって来ました。
 
 その、長年の実践経験から私達が日々見て来たものは、野宿を強いられているという事だけで、様々な迫害を受け、「もう一度やり直したい」という切ない意思や希望すらも踏みにじる社会の有り様でした。

 「怠け者」「乞食」「不法占拠者」等々、野宿を余儀なくされている仲間に投げかけられている社会の偏見。相次ぐ少年達の襲撃とその犠牲になった数多くの仲間。福祉すらも受けられずに路上で散った仲間の数々。偏見に乗じて行なわれた警察や行政の強制排除事件の数々。

 けれども、仕事を失ってしまった事が「悪」なのでしょうか?野宿に至ってしまった事が「悪」なのでしょうか?他に選択肢がない中、やむを得ず公園などでテントを張ったり、ダンボールハウスを建てる事が「悪」なのでしょうか?生活を自らの力で防衛するため立場の弱い者同士が集まる事が「悪」なのでしょうか?いくばくかの収入を得るために空き缶を拾ったり、古雑誌を拾ったりするのが「悪」なのでしょうか?
 
 私達は知っています。野宿という社会から隔絶されたかのような、特別な人々の集団かのように見られている人々の集まりであったとしても、この人々は決して、社会から隔絶された人々ではなく、社会の延長の中に在る人々である事を。
 すなわち、失業を強いて来たものは一体誰なのか?いままで住んでいた家を安易に失うまでの貧困を強いてきたものは一体誰なのか?野宿をせざるを得ない状況にまで追い込んで行ったのは一体誰なのか?

 それは、私達が構成する社会のいびつな有り様です。

 私達はこの社会の一員として恥じなければならない。
 同じ社会の下に生きて来た人々を、同じ社会の構成員であるべき人々を、放置し続け、排除し続けてきた事を。そして徒に多くの人々に言葉には言い尽くせない苦境を強いてきた事を。
 
 私達は野宿を強いられている彼、彼女らを暖かく迎え入れたい。そして、同情心からではなく、本当の気持ちでこう言いたい。「あなたも私達と同じ社会の構成員ですよ」「私達の社会は何度でもやり直しが効く社会なのですよ」と。
 
 そのために、そういう社会を作るために私達は喚起する。
「自国のホームレス問題とたたかおう」
「自国の貧困問題とたたかおう」と。
 これは野宿を余儀なくされた人々を「豊か」にするためだけではなく、私達社会全体の有り様を「豊か」にするために。路上に暮らす人々を異端視するのではなく、路上に暮らす人々に誰もが語りかけられる社会を作るために。
 
 それは、政治的な立場を超えた超党派的な国民的な課題としなければなりません。路上で寝ざるを得ない人々を空気のような存在として通り過ぎる人々がいること事態が異常な事であるという事を理解する人々なら、誰でもこの問題を社会的に解決したいと思うからです。もちろん解決といった場合、単に現象を見えなくさせれば良いという事ではなく、「幸福」になるべき人々が「幸福」になれない足枷を解き放つ、そういう社会的な努力を注ぐ事による解決、が目指さねばならないと私達は考えています。すなわち、単に社会が弱者を救護するという事ではなく、「自分の力で働き食っていきたい」という、社会人として当たり前の希求を尊重し、それを叶えるべく、社会が支援をしていくという、その絶えまない積み重ねの中で、解決すべきであり、今こそその方策を整えるべきであると私達は思うのです。
 
 私達は野宿を強いられた人々がいくらなけなしの努力を払っても野宿状態から抜けだせない現状を憂います。私達は野宿状態を固定化させる援護策より、野宿状態の固定化を避け、野宿から脱する支援策の重要性を訴えます。
 失業率が統計史上最悪の状態となり、また、今後の景気低迷、「構造改革」の中、多くの失業者が排出される事が予定されている現状の中、失職した貧しき人々が野宿の危機に至ることのないよう予防策を社会の底辺に張り巡らせる事の重要性も私達は訴えます。

 貧しき人々の生活防衛の「最後の砦」と言われ続けて来た生活保護制度が全国的に機能不全に陥っている事は、法的な根拠をもった就労自立へと結びつく施策(かつての失業対策事業のような生活保護制度と両翼になる)が不在な事にあります。もちろん傷病者や高齢者など稼動能力を失い身寄りのない人々に対しての保護を積極的に行ない、生活の最低限度の安定のために社会が力を払うのは緊急性の意味において必要ですが、八割が就労したいと考え、七割以上が求職活動をして、またその半数は何らかの仕事をして現金収入を得ている人々(「東京のホームレス」・東京都福祉局)に対して、その能力活用する機会すら設けず「自助努力」を強いている事こそが問題視されるべきだと考えます。
 病弱者や高齢者を除いた稼動年齢層の人々の大半は「自らの手で飯を食うこと」そして「働きながら自立すること」を望んでおり、その実現のための行政支援策はそこに至るまでの一時的なものであるべき事を望んでいます。「貧しくとも自らの手で」という自尊心は誰もが否定できない立派なものだと思います。そして社会が行なうべきは、この当事者の意欲、努力に適応した「自立への支援策」を重層的に設ける事であると考えます。働きたいという意欲を失わせないために、常雇用を望む人々には、求職活動の障害になるものを取り除き、そのための環境を提供する。軽作業労働を望む中・高齢者には公的就労を含めて働く場を積極的に提供して行く。そして、働く人々を路上に放置させないためにも、民間アパートや公営住宅などへ居住するための機会を提供していく。働く喜びを失わさせる施策ではなく、働くながら、地域社会の中で貧しくとも生き生きと暮らして行ける、そんな社会への再参画を目的とした支援策こそ、今強く求められているのです。
 
 私達は地方自治体、そして厚生労働省などとの交渉を通じて、上記のような施策を行なうべくこの数年取り組みを強めてきました。けれど、政府は小渕政権時に「ホームレス問題に対する当面の対応策について」(平成11年)という「対応策」をまとめたのみで、その後、全省庁的に構成していた「ホームレス問題連絡会議」を解散し、「対応」を厚生労働省に一任させ、あたかも政府の責務はこれで終ったかのような態度を取り続けています。その結果「ホームレス自立支援事業」も東京、横浜、大坂に設置したのみで、他の都市部には未だ作れず、しかも補助金が押え込まれている中その事業内容も「硬直化」しつつあり、実効性についての地域格差を放置したままです。また、地方自治体の中には「緊急地域雇用特別交付金」を利用し、軽作業労働を創出して来た(政府の雇用対策の不備を補って来た)所もありますが、その「交付金」も今年度で打ち切るなど、本気になって地域の雇用創出、そして、ホームレス対策・自立支援策を行なう気があるかすら疑わざるを得ない姿勢です。先の参議院選挙応援演説時の小泉首相の「乞食」発言は、政府のホームレス問題を重要視しない、重要視しないどころか、軽んじている姿勢を露骨に表現したものであると考えます。
 「雇用対策」「セーフティネット」という用語が飛び交う中にあっても、失業状態の最悪な事態を迎えざるを得ない人々の「痛み」へと、残念ながらその想像力は至っていません。
 
 先の国連社会規約委員会における『「経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約」に基づく日本の人権状況の審査報告書』では、日本においてホームレスが放置されていること、日本政府がこの問題に対し何ら総合計画を持っていない事に対する懸念が表明されております。ホームレス状態の人は二万四五一人(一九九九年厚生省調査)。現在、全国で三万人を突破したともいわれています。これらの人々を野宿状態のまま放置し続け、様々な危険に曝したままにするのか、それとも、これらの人々の生きる意欲を尊重しながら自立の支援に向けた総合的な対策に乗り出すのか。高失業率、景気低迷下の「雇用対策」「失業対策」と言った場合、今鋭く問われていることはまさにこの事です。
 
 私達が数年来求め続けて来た、「ホームレスの自立の支援策等に関する臨時措置法案」(民主党提案の議員立法)が現在国会に上程されています。私達も昨年十月以来、この法案策定過程を民間団体としての立場で惜しみない協力をしてきたつもりです。そして、今般、様々な方々の尽力によって、ようやく国会の場で「ホームレス問題」についての本格的な議論が具体的な法案をめぐって開始される事を私達は大きな喜びを持って迎え入れたいと考えます。

 法案の主旨は、その<理由>にも
 「自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し、健康で文化的な生活を送ることができない現状にあることにかんがみ、ホームレスに関する問題の解決に資するため、ホームレスの自立の支援、ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者に対する生活上の支援等に関し、国等の果たすべき責務を明らかにするとともに、必要な施策を講ずる必要がある。」

 と、簡潔に明記されているよう、国、そして社会がホームレス問題の解決に向けて具体的な施策を実施することを義務づけるものです。
 この観点こそ、今までの政策に欠けていたものであり、私達が長年に亘り訴え続けて来た事です。
 
 私達は本法案の主旨を強く評価します。

 全国各地において様々な野宿者の支援活動を行なっている民間団体はこれまで地方自治体に対し野宿者へ就労支援策、自立支援策などの対策を行なうよう要請、交渉等を続けてきました。長年に亘り多くの野宿当事者と共に行動を起こして来た地域では、対策上の前進は多少なりとも勝ち取られていますが、そういう地域でさえ「根拠法」がない、「国の財政補助が少ない」などを理由にして、それ以上の規模と質への対策上の踏み込みを行なえていません。とりわけ、就労自立へ向けた対策は「雇用」は国の管轄と、どの自治体も二の足を踏んでいる状態です。また他方において野宿者の生活保護申請すら拒否する自治体、地元支援団体との協議もせずに対策をサボタージュする自治体なども多く見られます。
 国が基本方針すら明確にせず、また対策を進めようとする自治体への財政補助すら抑え、ほとんどの事業を地方自治体に任せて来た結果がこの状態です。そして、その不利益はすべて野宿を余儀なくされた人々の命の問題として降り掛かって来ています。
 国、そして地方自治体の責任逃れの構造は、日々多くの失業者を路上へと放り投げ、そして多くの野宿者の生きる希望を失わせ、危険と隣あわせの生活を強い、そして、多くの野宿者を路上での死に追いやっているのです。
 まず、そのことを国は自覚すべきです。反省すべきです。そして、全ての国民の生活を守る立場を徹底すべきです。
 その意味において、理念を持ち、目標を持ち、総合的なホームレス対策の策定と実施を国および地方公共団体に義務付けた本法案の主旨は実に明解であり、とりわけ重要な視点であると考えるものです。
 
 私達は野宿を余儀なくされている人々の人格と意思が尊重され、路上から脱し社会の中でもう一度やり直そうとする努力・意欲を支えていけるシステムを持った社会を希求し、野宿の仲間と共に民間における活動を行なっております。私達は全ての野宿の仲間が今の過酷な現状から脱せられる事を願って止みませんし、それを支える私達で可能な限りの支援活動を行なっています。私達はその立場から、国の無策、国の無責任さを追及して行き、国の責任を明記した「ホームレス自立支援法」の制定を強く求めます。
 私達の当面の目標は、野宿を余儀なくされた人々が様々支援策を利用し、自らの「屋根と仕事」を勝ち取れる、そして、生活困窮者、失業者が野宿にならなくても済む社会のシステム作りです。もちろん私達からする法の制定要求は、この問題を国や行政機関に委任するという事では全くなく、野宿を余儀なくされた仲間、失業を余儀なくされた仲間の側から、自らのニーズに即したシステムを自らの力を発揮して社会的に作ろうとする運動です。私達は当事者の利益を守るという観点から、当事者と共に自ら必要な事は自らの協同の力を発揮しながら、国、および地方自治体に対し、そのシステム作りへの積極的な関与、とりわけ法体系の整備を求めるものです。もちろん、私達は本法案が制定された暁には、民間支援団体という立場で、その実行計画に積極的に参画し、実のある対策が構築されるよう自らの努力を惜しまないつもりです。

 既に法案には「民間団体の能力の活用等」が謳われておりますが、各地のNPO団体などは、施策の策定段階から参画できるだけの能力、運動蓄積を有している所もあります。それらの蓄積が真に生かされるよう、また、なによりも施策をより実行性のあるものとするため、私達は本法案審議の過程において、具体的な事業計画に関わる以下の点にも留意し、十分に議論してもらいたいと考えます。

・国の責任を明らかにし、事業実施に必要な費用の財政負担を明確にする。
・国が野宿生活者の自立支援事業と野宿生活者発生予防について基本方針を策定し、地方自治体が支援団
 体等と協議して実行計画を立てる。
・地方自治体の実行計画とその実施状況について評価機関を設ける。
・施策の目標を掲げる。
・勤労意欲を維持・高揚するために、収入を伴う就労事業を組み込む。
・メンタルケアを含む職業訓練制度を組み込む。
・施策・事業の活用は当事者の選択にゆだね、強制収容・強制排除を人道的見地より行わないことを明確
 にする。
・民間団体の能力活用・協同を盛り込む。

 私達は法の制定はホームレス問題の解決に向けたその第一歩に過ぎないと考えています。最も重要な事は、その法に基づき施行される施策が、本当に野宿を強いられている人々の能力や努力を支えるものなのか?実効性が本当にあるものなのか?という点にあります。なによりも野宿を強いられている人々の立場からの議論が国会の場で行なわれる事を私達は期待したいと考えます。
 が、他方において、今臨時国会は米国へのテロ攻撃情勢を受けて、対テロ、米国支援など外交防衛問題の法整備問題に終止してしまうのではないかという恐れもあります。もちろん、これらの問題と私達が求めている「ホームレス自立支援法」と天秤にかけるつもりはありませんが、「テロ不況」とも言われる世界的な景気減速と失業率の上昇の中で、今後増大するであろう雇用不安を解消するための「雇用対策」、「失業対策」は極めて緊急性をもった課題であります。
 そして、これから過酷な冬を迎えんとしている野宿者の状態をどのように改善させていくのかは、国民生活を守る立場の政治にとってみれば、先延ばしは決して許されない極めて重要な政策課題であると言えます。
 私達はこの法案の重要性、緊急性を考える時、今国会の場においてすみやかに審議入りし、制定することが望ましいと訴えます。
 そして、そのために私達の取り組みに賛同して下さる様々な方々と共に、私達の声を社会にもっと強く、もっと大きく発していきたいと考えています。
 
 臨時国会の会期は十二月冒頭までです。私達は限られた時間の中、精一杯の声を張り上げます。世論を喚起する行動を全国各地で展開します。
 全国から万難を排して結集した昨日の国会請願行動、そして本日の中央総決起集会はそのたたかいの第一歩です。
 「ホームレス自立支援法」の制定という具体的な目標を私達はもっています。この実現のために、本日集まられた皆さんと共に実のある歩みを今後各地において進めていきたいと考えています。

 ホームレス問題と、貧困問題と本気でたたかう社会に私達の社会がなるために。そして、やり直しが効く社会にしていくために、立場を超え全力でたたかい抜きましょう。

(了)