「ホームレス自立支援法」制定に向けての外堀が埋まりつつあります。日弁連は3月22日、政府に「抜本的施策を内容とする特別立法案策定」の国会上程を勧告し、東京都議会は3月28日「ホームレスの自立支援に関する特別措置法の制定に関する意見書」を採択しました。以下、その全文です。
       日弁連総第82号
2002〈平成14)年3月22日

内閣総理大臣
小泉 純一郎 殿
厚生労働大臣
坂口 力 殿

日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡

勧 告 書

 当連合会は、「新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議」外の申立にかかる人権救済申立事件について調査した結果下記のとおり勧告します。

第1 勧告の趣旨
1 野宿を余儀なくされている人々に対する抜本的施策を内容とする特別立法案を、すみやかに国会に提出されたい。そして、同法案作成にあたっては、以下の諸点に特に配慮されたい。
(1)特別立法においては、野宿生活者の人間としての尊厳確保と生存権保障という立法目的を明文で規定するとともに、その支援は、すべての野宿生活者が野宿から脱却して人間らしい生活を回復することを目標とするものであって、「自立の意思」を強調して経済的に自立できない者を支援の対象から排除することのないよう留意すること。
(2)特別立法による支援は、生活保護基準以下の内容であってはならず、かつ、就労自立に至らない者については生活保護法を通用するなど同法との連続性を保つ内容とすべきであること。
(3)高齢者特別清掃事業などの公的雇用の創出事業を含む雇用、住宅、医療・福祉、精神保健及び司法的救済(法的援助)などの総合的な施策を盛り込み、自立支援センター等の施設のあり方に多様性をもたせ、かつ、施設退所後のアフターケアを充実させること。
(4)野宿生活者に対し、公共施設等からの立退きを求める場合は、行政代執行法等の法令を遵守することはもとより、関係者と事前に十分話し合うなど適正手続を尽くし、かつ、適切な代償措置を講ずべきである旨を規定すること。
(5)野宿生活者に対する差別と偏見を除去するための人権啓発・教育活動を行うことを規定すること。

2 定まった住居がないことや65歳未満で疾病のないこと等を理由に保護を開始しないという、野宿生活者に対する生活保護法の違法な運用を是正し、同法を適正に運用するよう各地方自治体に周知徹底きれたい。

第2 勧告の理由
   別紙調査報告書のとおり。

以上


ホームレスの自立支援に関する特別措置法の制定に関する意見書

 厚生労働省の発表によると、全国の路上生活者、いわゆるホームレスの数は、平成13年9月現在で、約2万4,000人に及んでいる。
 ホームレス自身の生命や健康の危機に加え、公園や河川敷等の占有による地域住民の利用阻害、少年による襲撃事件に見られる地域社会とのトラブルの発生など、ホームレス問題は、もはや放置できない深刻な社会問題となっている。
 都内においてもホームレスの数は、平成13年8月現在、23区内で5,600人を数えるほか、一部の市においてもホームレスが多数見受けられる地域がある。
 こうした中で、都は23区と共同で、これまでの応急援護中心の対策から総合的対策への転換を図り、本人の自助努力を基本としつつ、自立支援センターなどを中核とする一貫した処遇システムを構築し、ホームレスの自立促進を図っているところである。
 しかし、ホームレス問題は、深刻な景気低迷による失業者の増加といった社会経済状況が底流にあり、大都市を中心に地方都市にまで広がる広域的問題である。また、雇用や所得保障など社会全体のセーフティネットの在り方にもかかわることであることから、第一義的には国の責任において問題解決に向けての対策がとられるべきものである。
 国がその責務として、就労、住宅、福祉、保健・医療などの総合的な対策に踏み出すとともに、財政措置の抜本的拡充を行うことが、全国レベルでの問題解決に向けての不可欠な要件である。
 よって、東京都議会は、国会及び政府に対し、ホームレス問題が解決に向けて前進するよう、次の抜本的対策を講ずることを強く要請する。
1 ホームレスの自立支援に関する特別措置法を早期に制定し、実効性ある対策を講ずること。
2 雇用機会の確保、職業能力開発等の就労対策の充実、安定した居住場所の確保、感染症対策の強化を始めとした保健・医療の充実など、総合的かつ抜本的な対策を講ずること。
3 ホームレス自立支援事業等について、全国の関係地方公共団体と連携し、地域の実情に応じた事業が実施されるよう、制度及び財政措置の抜本的拡充を図ること。
4 自立支援事業等との連携を図りながら、公園等の公共施設の適正な利用が確保されるための措置を講ずること。
5 ホームレス問題に対する国民の理解の促進に努めること。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

  平成14年3月28日

              東京都議会議長  三 田 敏 哉

衆議院議長 参議院議長 内閣総理大臣 総務大臣 厚生労働大臣  あて提出