2002年夏の都区「路上生活者対策」拡充を求める取り組みへ向けて!

ホームレス自立支援法制定運動と
制定後の連絡会運動

笠井和明

 連絡会では今、法制定後の運動方針についての本格的な議論を開始している。もちろん法制定は未だではあるものの、民主党案と与党案がほぼ同内容において出揃った時点で、残りは細部にわたる調整と、制定の時期の問題が残すのみである。運動団体としての基本的な出番は既に終わっている。
 私たちは、私たちの力量において既に(一昨年来)十分な大衆行動を展開し切り、法案問題を大きくクローズアップさせて来た。民主党案、与党案の細部の違いは私たちの想定内の誤差でしかない。
 飛ぶ鳥跡を濁さず。私たちはただ颯爽と次なるステージへと翔ぶだけである。
 
 民主党案と与党案を比較対照すれば一目瞭然だが、基本骨格(国の責務としてのホームレス者への自立支援策の構築)において両者に大差はない。条項上において明らかな違いは各種メディアが指摘しているよう与党案に第11条「公共の用に供する施設の適正な利用の確保」が新設され加わった事などをマイナス要因とすれば、プラス要因は与党案、第3条に2項「就労機会の確保策が最重要点である事の留意」が新設され、また法の期限を10年と延長(5年後の見直し)された事などであろう。
 このマイナス要因だけをクローズアップして「排除法案」と読む傾向に私たちは汲みしない。マイナス要因があるとしても全体としては妥当な線でまとまったというのが私たちの評価である。今日の社会においてこの法案が成立する事はマイナス面が大きいのか、それともプラス面の方が大きいのか?その判断は法案全文をお読みなった方々に委ねる事にしたい。

 私たちは「強制排除」とのたたかいは野宿者運動の最重要なファクターであると主張し、野宿者の生活基盤を今以上劣悪化させないための手段であると同時に、それは行政手法および社会的偏見を変えて行く契機になるのと考えて来た。もちろんその考えは今だ変わりはないが、この抵抗線を築くだけでは現状維持(野宿の固定化)にしかならず、他方においての野宿から脱するあらゆる施策を勝ち取る、もしくは自らの力で獲得する課題を抜きにしての排除とのたたかいはあり得ない事を常日頃から訴えて、自らもその立場で運動を続けて来た。この立場から与党案を評価するなら、確かに第11条が新設されたのは遺憾であり、削除すべきであると考えるが、他方でそれ以上に自立支援策が国の責務としてより広範により大規模に行われるのが法的に明記され、実施されるのであれば、妥協の余地があるという立場になる。
 「排除」とのたたかいとは言うものの、私たちの「排除」とのたたかいは常に負けて来た。94年も、96年も新宿において徹底したたたかいをやったものの、実際に新宿の仲間達は追い出された。けれど「立ち退けど消え去らず」の精神で、行政手法を批判しながら、自らの生活基盤を建て直して来た。
 では、「排除」とのたたかいに「勝つ」とはどういう事を指すのであろうか?対象を行政に限って言えば、排除をするまでもない野宿から脱せられる施策を当事者のニーズに合わせ実施させる事、そしてそれらの支援を受けながら多くの野宿者が「不法占拠」ではない形での生活基盤を整え「社会復帰」を勝ち取る事、となるのではなかろうか?決して現状を固定する事が「勝った」事にはならないのではなかろうか?

 私たちはそう考えている。

 そんな事より、私たちは法に基づく施策が実際上に実施される段階において、その施策が「排除の論理」にならないよう施策決定に深く関与し、路上の仲間のニーズに即した自立支援策の実を取る段階へと至らなければならない。だからこそ、そのための準備を現在進めている訳である。自ら勝ち取った法が自ら利用できないようでは運動団体の沽券に関わる問題である。
 私たちは現在、以下の三点を整理しながら議論を開始している。1、「国の総合的施策に対して」2、「東京都の実施計画に対して」3、「新宿区に実施計画(新宿独自対策)を立てさせるために」。
 この中でも自らの関与も含めて劇的に進めていかねければならないと考えているのは、3点目の課題である。
 東京都はすでに昨年初頭に「ホームレス白書」を発表し、路上生活者対策の基本方針と3つの施設設置を含めた実施計画案を現在、都区共同の枠組みで実施している。いわゆる23区対策と言われるものである。が、現在の路上生活者対策は特人厚による「悪しき平等主義」が徹底されており、地域特性に即した対策が行われていない。その結果、緊急一時保護センターに入寮するだけでも10倍もの抽選を勝ち抜かねば自立支援施策に参加できないと云う矛盾が新宿区で発生している。これは単に施設数が足りないという量的な問題ではなく、新宿地域の仲間の現状に現行の自立支援策が対応できていない事から発生する問題だと考えざるを得なくなって来ている。23区内においていわゆる山谷圏の台東区などは、山谷対策と路上生活者対策の二重化の中で地域対策を射程に入れるとしても、台東区に次ぐ1000名規模の人数が出たり入ったりする新宿地域には独自の就労対策もなく、23区で平面化された自立支援事業の一部しか回ってこない構造が、これらの矛盾に拍車をかけていると考えられる。
 私たちは新たな法を活用してここにメスを入れて行きたい。旧来の「寄せ場」対策の延長ではなく、路上生活者対策としての地域対策を官民の力をあわせ、かつ地域住民の理解を得ながら樹立させて行く構想を早期に打ち立てる必要性が問われている。これは都政下において初の実験となるが、「強制排除」問題を仲間の力で克服してきた新宿だからこそ出来得る実験になるかと考える。

 そのため連絡会では区内野宿者の概数調査、アンケート活動による定性調査を既に開始している。その結果はどういう形にせよ早急に公表していくつもりである。
 新宿区には就労対策を軸とする新たな施策を行なってもらうつもりで私たちはいる。10年を目処にした腰を据えた対策を勝ち取るために私たちは区内における政策提言をまとめ、区や都との話し合いへと進んでいくだろう。
 そして私たちも自らの責任で就労支援活動を今以上に広くしていかなければならない。そのため、連絡会の元に集う野宿者や元野宿者を中心にNPO法人の取得を目指す事にした(新宿連絡会の外郭事業団体として)。そのための準備会設立を準備している。 

 私たちはあえて困難な道を行きたいと思う。現状を固定した運動を続けていたら法の期限の10年なんてものはあっと云う間に過ぎ去ってしまうだろう。この勝ち取った10年を生かすも殺すも私たちの力にかかっていると考える。そして、そのためにはあらゆる領域においての飛躍が問われる。私たちを支え続けてくれた人々と手を携えながら、連絡会は再び翔び立つ。

(連絡会NEWS29号より)