2001年−2002年 新宿連絡会医療班 越年活動報告

新宿連絡会医療班 大脇甲哉

 新宿連絡会では野宿者に対する支援活動を通年・継続的に行っている。年末年始期には仕事が休みになるため生活費がなくなったり、飲食店も休みとなるため食料の獲得が困難になる。またこの期間は公共機関も休みとなり福祉事務所に相談する事もできなくなるなどの理由で野宿者に闘って特に生活が厳しい時期である。そこで我々は越年活動として年末年始期に、集中的に炊き出しやパトロール・医療相談活動を行っている.1994年末から越年活動を開始し、今回で8回目である。最初は新宿駅西口地下で行っていたが、98年2月の段ポール村火災事件をきっかけに1998−1999年の越年期から新宿中央公園で活動を行うようになり今年で4回目である。
 越年活動といっても我々は特別なものとは考えておらず、毎月第2日曜日に行っている定例医療相談活動の延長線上にあると位置付けている。即ち定例活動と同じように医師・歯科医師や看護婦による健康相談・血圧測定・市販薬提供を行う「医療相談」を期間中2回行う。その他医療テントを設営して24時間体制で医師・看護婦がテントに待機し、急病や外傷を受けた人たちに対し救急対応や薬の提供・傷の処置を行う。またテントには数人分の寝るスペースを設け、入院する程重症ではないが衰弱し野宿には耐えられない人を越年期間中保護する体制を取っている。また期間中に相談をし医療機関での治療が必要と考えられた人や、生活保護が必要と思われる人は、福祉事務所の仕事始めである1月4日に、福祉行動として連絡会医療班のスタッフが付き添って新宿区役所の福祉窓口に行き、医療機関受珍や生活保護の手続きに対して側面支撲とその後のフォローアップを行っている。
 越冬期の医療班スタッフはこれまでの定例医療相談活動に参加した経験のある人たちがほとんどであるため、特別なオリエンテーションはしない。越年期間の直前に行う12月第4日曜日の医療相談会を説明とスタッフ配置の話し合いとしている。今回の越年活動に参加したボランティアは医師・歯科医師9名、保健婦・看護婦10名、鍼灸師1名、一般および学生20人だった。今年は特別に文教大学の学生14名に参加協力していただいた。
 12月29日から1月3日までの越年期間中、毎日の炊出し数は900〜1000食、パトロールで出会った野宿者は400〜500人だった。相談記録表を作成して医療相談を行った人は合計121人、そのうち医療機関受診が必要と考えられ紹介状を渡したものは37名であった。また症状が軽く口車で問診したのち市販薬を提供した人がのベ458人であった。また重症で越年期間中に救急搬送した人は7名(うち2名はパトロール中に直接搬送)であり、4名が入院となり、入院にならなかった3名はその後経過観察し1月4日以降も医療機関での治療を継続した。1月4日福祉行動を通して医療機関を受診した人は22名であり、うち5名が入院、17名が通院治療となった。その他にもともと通院治療中であり内服薬が切れて相談に訪れた1名は通院を継続し、新宿区以外の福祉事務所へ相談にいった人が3名いた。福祉行動後生活保護を獲得した人が3名、法外援護でドヤ(簡易旅館)に入った人が2名、女性施設入所2名、さくら寮(冬期臨時宿泊施設)入所3名だった。医療テントで保護された人は実人数で2名のみであった。
 医療相談を受珍し相談記録表を作成した121名に開し集計を行った。その結果は以下の通りである。性別は男性107名、女性7名、不明7名。年令は30歳から76歳までの人たちであり、50歳から64歳までが全体の6割を占め、平均年令は52.3歳であった。また6割の人が野宿をはじめてから1年未満であった.野宿をしている場所は8割が新宿区内であるが、定まった寝場所がない人が6名いた。山谷・東京駅・日比谷公園など遠方の人もいたが、この人たちは山谷での炊出しの準備や他の支援団体がパトロールで出会い我々の医療相談を受診した人たちである。またアパート・サウナ・飯場など野宿をしていない人たちも受珍した。
 受診者の主訴で最も多いものは、鼻水・咳・痰などの感冒症状であり全体の4分の1以上を占めた。感冒以外では腰痛・腹痛・高血圧・手足のしぴれ・蜂窩織炎・悪心嘔吐および打撲・挫創などの外傷が多かった。また虫歯・歯周病などの歯科疾患も多かった。
 症状が重く紹介状を書き医療機関を受診した22人の内訳は、蜂窩織炎4名・外傷3名・糖尿病3名・白内障3名などであった。
 越年期間中4名、1月4日以降5名の入院があったが、その内訳は蜂窩織炎2名・結核2名のほか肺炎・高血圧と糖尿病の合併・胃潰瘍・ソケイヘルニア・軟部腰痛であった。
 入院および外来治療を受けた医療機関は国立国際医療センター・高田馬場病院・東京医大・長汐病院・春山外科などであった。
 症状が軽いため相談記録を作成せず投薬・処置を行った458名のうち209件が感冒薬であり、胃腸薬99件・湿布53件・解熱鎮痛薬34件・軟膏薬24件などであった。
 既往歴のうち多いものは、胃潰瘍11名・結核8名・骨折6名・高血圧5名・脳梗塞4名・糖尿病4名・膵炎4名・胆石症3名・テンカン2名などであった。

 今回の越冬活動の特徴は、それ程厳しい寒さではなく、雨や雪が降らず比較的穏やかな気候だった事・風邪の症状が鼻水が主体であり、気管支炎・下痢・嘔吐・発熱など重傷のケースが少なく、全身衰弱などでテント保護が必要になる程体調を崩す人が少なかった事である。
 受診治療を必要とした疾患では熟傷・白癬・擦過傷が原因と思われる下肢の重症蜂窩織炎が多く入院・通院共に最も多かった。結核で入院治療となったケースが2名あったが、他にも過去に結核治療自己中断の既往があり、2週間以上咳や痰などの症状が続いており結核の再発が疑われるケースが3名あり、精査のため医療機関受診を強く勧め紹介状を渡したが、3名とも1月4日に福祉事務所に訪れずその後もフォローされていない。その他には糖尿病と白内障が多かった。白内障の原因は糖尿病が最も多いと考えられ、野宿者の年齢層は生活習慣病の好発年齢層と−致しており、一旦糖尿病など生活習慣病が発病すると食事管理が困難であり、かつ継続治療が難しいため重症化してしまう事がおおい。胃潰瘍・高血圧など他の生活習慣病は今回の越年期には少なかった。

 

資料

1. 受診者の年齢

年齢分布 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳 65-69歳 70-79歳 合計
人数 6 8 10 11 27 20 20 9 3 114

2. 野宿期間

野宿歴 1ヶ月未満 3ヶ月未満 6ヶ月未満 1年未満 3年未満 5年未満 10年未満 10年以上 合計
人数 7 3 3 5 6 3 1 2 30

3. 野宿場所

野宿場所 中央公園 新宿駅 戸山公園 高田馬場 西新宿 大久保 参宮橋 代々木 山谷 東京駅 日比谷公園 不定 アパート サウナ 喫茶店 飯場 合計
人数 21 17 3 2 1 1 1 1 1 1 1 6 4 1 1 1 63

4. 受診病名

外来受診病名 件数
蜂窩織炎 4
外傷 3
糖尿病 3
白内障 3
テンカン 1
歯科疾患 1
骨髄炎 1
腹痛 1
1
嘔吐 1
心疾患 1

5. 入院病名

入院病名 件数
蜂窩織炎 2
結核 2
肺炎 1
高血圧・糖尿病 1
胃潰瘍 1
ソケイヘルニア 1
軟部腫瘍 1

6. 受診・入院医療機関

医療機関 入院 通院 合計
国立国際医療センター 3 7 10
高田馬場病院 2 2 4
東京医大 1 2 3
長汐病院 2 2
春山外科 2 2
都立民生病院 1 1
都立大久保病院 1 1
目白病院 1 1
慶応大学病院 1 1
社会保険中央病院 1 1
合計 9 17 26

7. 主訴 既往歴

01-02 新宿越年 主訴
既往歴
呼吸器 感冒 38
結核疑い 3
胸部痛・呼吸困難 2
その他 2
合計 45
消化器 腹痛 8
悪心・嘔吐 4
下痢 3
心窩部痛 2
痔・脱肛 2
下血・タール便 2
その他 6
合計 27
循環器 高血圧 7
不整脈・動悸 1
狭心症 1
合計 9
一般内科 しびれ 5
糖尿病 4
浮腫 2
片麻痺 2
その他 5
合計 18
整形外科 腰痛 9
捻挫・打撲・挫傷 5
関節痛 4
下肢痛 4
骨髄炎 2
その他 2
合計 26
皮膚科 蜂窩織炎 5
あかぎれ 3
咬傷・刺虫症 3
白癬 2
軟部腫瘤 2
湿疹 2
その他 4
合計 21
歯科 虫歯 5
摂取障害 2
歯周病 2
その他 7
合計 16
眼科 白内障 3
失明 1
合計 4
胃十二指腸潰瘍 11
結核 8
骨折 6
高血圧 5
脳梗塞 4
糖尿病 4
膵炎 4
胆石症 3
テンカン 2
腸閉塞 2
虫垂炎 2
胃癌 1
胃切除術後 1
肝炎 1
肝硬変 1
ソケイヘルニア 1
1
肺炎 1
喘息 1
心筋梗塞 1
心臓弁膜症 1
脳腫瘍 1
レックリングハウゼン病 1
前立腺肥大症 1
椎間板ヘルニア 1
半月板損傷 1
その他 6