新宿区におけるホームレスの人たちの結核検診に関する提案
1.はじめに

 ホームレスの人たちの結核罹患率の高さは様々 な場で報告されているので、彼等を対象とした結核検診の必要性をあらためて述べる必要はない。しかし最近では、生活保護利用者が宿泊する区内簡易宿泊所で も、就労自活している利用者に結核患者が出ていることから、不安定な就労と生活環境の人も対象に加えた結核検診が有効に行われる必要性を訴え、その方法と 共に提案したい。


2.新宿区における結核検診者数の推移と現状
受診者(人) 要精密検査者(人) 結核要治療者(人) 結核入院者(人) 受診者中の要精検者発見率(%) 受診者中の患者発見率(%)
2000年 新宿区立新宿中央公園 98 12 3 (34条)2 12 3
都立戸山公園 54 4 2 2 7 4
2001年 新宿区立新宿中央公園 80 16 4 (34条)3 20 5
都立戸山公園 52 3 1 1 6 2
2002年 新宿区立新宿中央公園 105 13 5 3 12 5
都立戸山公園 63 7 4 2 11 6
2003年 新宿区立新宿中央公園 87 2 0 2 2 2*
都立戸山公園 40 5 1 1 13 3
2004年 新宿区立新宿中央公園 107 8 1 1 7 1
都立戸山公園 34 3 0 0 9 0
720 73 21 17 平均10 平均3
注)1)(34条)は結核予防法34条での入院
  2)2003年中央公園は要精密検査後結核入院患者が出ている が、結核要治療者は0人となっていたため患者発見率には*を付加した。

 
 5年間の戸山・中央両公園の結核検診では、総受診 者数中の平均患者発見率は3%である。検診者数は、その年によってばらつき があり患者発見率も同様である。結核検診にあたっては、毎年、新宿連絡会が事前にチラシでの広報と、パトロールや医療相談会で東京都健康局作成等の結核 リーフレットを渡しつつ直接声掛けを行うなど協力しているが、最近では特に戸山公園の検診者数は減少傾向にある。


3.現在の問題点

 結核検診者数が減少してきている要因を考える ために、ホームレスの人たちの1日を見直す必要がある。彼等は、寒い夜は凍えを 防ぐために一晩中疲れた足を引きずりながら歩き回り、幸いにして寒くない日も朝、店やビルのシャッターが開く時間、通勤者の動きと共に駅や道路から移動せ ざるを得ない。1日中一定の場にいることはほとんどない。少しで も空腹を満たすため、遠く離れた炊きだし場への徒歩移動などに長い時間が費やされる。また、不安定ながらも現金を得るための雑誌集めや土工仕事をしてい る。そのため、検診の希望があっても食べ物を得たり、数少ない現金収入の機会を逃す訳にはいかない。結果として、毎年、平日の日中に行われる結核検診を実 際に利用できる人は少ない。


4.改善案

 結核検診は、平日ではなく土曜日もしくは日曜 日を選択することと、人が多く集まる機会と場で行う必要がある。その際には、以下の新宿連絡会が行っている日曜日中心の定期的な行事や宿泊所訪問活動と協 同することが最も有効であり、医療相談会の場では連絡会医療班も協力できる。また、医療班が行っている定期的宿泊所訪問活動は、宿泊所に住む人たちに対し て結核検診実施の情報提供を行うことができ、広報の広がりとして役立つ。

1)毎週日曜日18時からの中央公園ポケットパークでの炊きだし。 集まる人数は平均500人から700人。炊きだしは、宿泊所や深夜喫茶・サウナ宿泊者 等様々な人たちが利用している。

第2日曜日の夜は、医療班が定期医療相談会を行って いるため、結核検診を第2日曜日の夜に行えば医療班の定期医療相談会と共同できる。

2)毎年8月の土曜日・日曜日に行っている中央公園での夏 祭り。集まる人数は約700人から800人。

3)年末年始区役所が閉庁する間行われている越年越 冬の中央公園ポケットパークでの炊きだしと、救急医療テントで行う医療相談会。この間、ポケットパークに集まる人数は毎日約700人から800人。

4)福祉事務所での乾パン提供場所。集まる人数は約300人。

 平成13年10月に行った新宿区福祉事務所の乾パン配布場所に おけるアンケート調査では、211人のアンケート回収から1年以内に胸部レントゲン検査を受けた人は113人、受けていない人は95人という結果が出ていることから、乾パン提供の場もある程度 有効と考える。


1)〜4)案に加え、検診を受けるにあたって希望者の動機 づけをより大きくするために軽食・下着・着替え・靴・入浴の機会の提供、そして生活相談と自立支援事業等に関する相談や緊急一時保護センター入寮受付等を 付加することも重要である。

 5.期待できる結果

1)結核検診の受診者の大幅な増加・結核患者発見数 増加は患者自身の利益に加え、結核早期発見効果により地域全体が大きな利益を得る。

2)結核検診そのものが福祉利用のためのアウトリー チ活動となり、生活相談と自立支援事業に関する情報を持たない多くの人達が制度を利用する機会を得られる。

 6.上記提案における問題点

1)日曜日や年末年始に行う場合のマンパワーの確保 等および受け入れ医療機関や生活施設の確保。

2)検診希望者が多い場合の検診車の受容能力。

3)乾パン提供場所での結核検診は、課題となる平日 の実施となることと、区役所に行くことを躊躇する人は検診を受けることができない。

 (おわりに)

 大阪の高鳥らの研究によると、結核患者の平均入 院期間は4ヶ月以上であり費用も少なくとも200万円を超えるという。また、大阪市保健所の下内 の仮説によれば「喀痰塗抹陽性の排菌患者が発見されるまで6ヶ月程度かかった場合、10人を感染させ、そのうちの1人が2年以内に発病する。従って、無症状、あるいは軽 症のうちに検診で見つかれば2年以内の1人の発病者を予防できる」とある。下内は次のよ うにも述べている。「患者発見率0.5%(200人検診を実施し1人見つかる)であっても、検診にかかる費用、間 接的人件費も含めて、1人当たり1万円を支出する価値がある」。野宿生活により近 く、宿泊所やサウナ・カプセルホテル・深夜喫茶等で寝泊まりする人たちも結核感染の危険が高い。結核検診は費用効果の視点からも出来るだけ多くの人たちに 検診の機会を提供し、早期発見・早期治療に結びつけることが必要である。

 以上のような費用効果の側面以上に重視すべき は、私たちの社会には、感染症のハイリスクを抱える人たちがこれ程に存在していることである。彼等が劣悪な生活環境と栄養不足の物理的要因から結核に感染 しているという根本的な問題が改善されないまま残っている。健康障害は、生活環境がつくる2次的問題であることを公衆衛生の立場から無視す るべきではない。これらを踏まえ、利用しやすい結核検診と疾患の早期発見の努力に加え、感染症予防の最大効果を得るには、当事者がホームレスを脱し生活を 建て直すことである。保健・福祉行政双方は、保健活動と生活相談から結核検診を見直し改善する 必要がある。

 

参考引用文献: 黒田研二編「ホームレス者の医 療ニーズと医療システムのあり方に関する研究」

        平成15年度総括・分担研究報告 

        厚生労働省科学研究・研究費補 助金政策科学推進研究事業


                  2004年11月15日

                       新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)医療班