新宿区福祉部部長
 新宿区福祉事務所長 殿

2006年4月10日

路上生活者自立支援事業に関する申入書

       新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
                  
             連絡先 090-3818-3450(笠井)


 平素から路上生活者対策の推進にご尽力頂き感謝しております。
 今後とも、より多くの路上生活者達が路上から脱却できかつ自立生活が送れるよう、「ホームレス自立支援法」に基づく諸施策の前進、拡大及び拡充を私たちは強く望んでいます。
 
 さて、一昨年から実施された都区共同事業「ホームレス地域生活移行支援事業」の成果、また区独自で実施して来られた「巡回相談事業」等による生活保護受給者の掘り起こしと保護施策の充実、枠の限りがある施設への入所を、透明性と平等性を担保に混乱なく実施されてきた「自立支援システム」への入所推進の成果、そして東京等大都市を中心にした景気回復の兆しがようやく見え始めた事もあり、区内の路上生活者数が減少に転じた事は大変頼もしく感じているところであります。
 とは云いながらも、まだまだ区内には新宿駅周辺を拠点に起居せざるを得ない人々、また区立公園、都立公園にてテント生活を余儀なくされている人々が私たちの独自調査でも未だ600名前後おり、過酷な生活を強いられております。そのほとんどが今の現状(路上生活状態、失業、半失業状態)に満足しておらず、機会さえあれば元の生活(貧しくとも屋根があり、仕事がある暮らし)に戻って行きたいと考えている人々です。
 おそらくその事を周知していたからこそ新宿区は「ホームレスの自立支援等に関する推進計画」を独自に策定し、未だ残る多くの路上生活者の方々に現行法と現行施策の中で可能な限りの「支援」の手を差し伸べ、出来るだけ多くの方が何らかの形で「自立」をして頂きたいと、改めて決意なされたと、私たちはこの「推進計画」をそう理解をしております。
 先の「地域生活移行支援事業」が中央公園、戸山公園を中心に「重点地域」と云う形で実施された事に対しては、それ以外の場所で起居する人々に取ってみれば大変不本意な事でありましたが「いつか駅にも順番がまわって来る」「公園だけの問題でない事は新宿区も理解している筈だ」との期待により、不平等さの不満が次第に解消された経緯があります。
 そう云う謙虚な仲間にとって「平成18年度以降は、ようやく俺たちに順番がまわってくる年だ」との思いが渦巻いております。

  申し入れの前提として区内路上生活者のこのような状況と施策経緯上に発生した「思い」を理解して頂きたいと考えます。
 「推進計画」の個々の点の評価はここでは致しません。また今年度以降の「地域生活移行支援事業」に関する要望もまた別の機会にして行きたいと思います。
 今回、申し入れをしたいのは「対策の平等性と透明性をいかに確保するのか?」の一点です。
 云うまでもなく、施策をすべての対象者に等しく分配したいと思うのは自然な気持ちです。しかし、全体の予算の制約があり、議会の監視があり、区民の監視があり、更に都区間の決まり事があり、また23区間の決まり事がありと、この事業には不本意な制約が多くあり、結果として残念ながらすべての対象者に等しくそのチャンスが分配されているかと云えばそうでもないのが事実です。
 そこには、先に指摘したような実際の「不平等」や利用者の「不平等感」が必ず発生して来ます。

 路上生活者対策、なかんずく自立支援事業の利用においては、路上生活を余儀なくされていると云う点と「自立の意思」の有無が原則的な利用条件になります。しかも「自立の意思」の有無は、他人が測れるものではありません。これまでの都区共同路上生活者対策を振り返ってみても、居住地域で利用の制限をしたことはあっても、それ以外の理由で制限した事はなく、一定の条件さえあえば利用のためのチャンスは無差別平等に与えると云うのが原則であった筈です。

 原則平等である筈の自立支援事業において、実際上の「不平等」「不平等感」をどのように解消するのか?この事に真摯に向き合い、具体的なルールを確立して行く事を放棄するのであれば、とたんに「平等性」の原則が崩れ、当事者の間に行政不信が蔓延するであろうことは、少し想像するだけで明らかだろうと考えます。
 私たちはかつて歴代の福祉事務所長と協議を重ね、この難題への答えを「先着順」からルールを明確化した「抽選方式」へと変えて行きました。そのための入所方法のルールを広く当事者に正確に伝え、また、抽選日には必ず私たちが立ち会う事で透明性を担保し、残念ながら外れ不満を持つ仲間には「次のチャンスまで待とう」と説得をして来ました。もちろんそれを固定化させるのではなく、希望者全員が入れるような入所枠の拡大についても再三に亘り都区に要望を出してきました。
 自立支援事業への利用希望者が多い新宿区の特性を考えて見れば、このような方法しかなかったのも事実です。
 ところが、「千代田寮」が開設されて以降、この両者で作って来たルールが場当たり的にないがしろにされ、「随時入所」と云う基準のあいまいな入所方法が導入され、また長年月に一度抽選会を続けて来た「大田寮」の4月以降の抽選日は未だ不明と云う状態となりました。
 私たちが日々努力して情報伝達を心がけていた「いつ」「どこで」「どのようにしたら」自立支援事業を利用できるのか?利用できるチャンスがあるのか?と云う基本情報が突如としてなくなり、多くの利用希望者を不安な状態に落とし込めているのが現状です。
 
 今後私たちの協力を得ず、拠点相談や巡回相談センターで情報提供をやると云うのであれば、それはそれで構いません。しかし、その場合も当事者への説明責任をしっかりと取って頂きたい。どういう基準で、どういう方法で、新しいルールを導入すると、当事者が納得行く形での説明は不可欠だろうと考えます。事業利用希望者をないがしろにし、勝手にルールの変更を押し付けるのはやめてもらいたいと思うのであります。
 私たちの今回の要望事項は下記の点だけです。



 1 平成18年度以降の自立支援事業利用に関するルールを事業利用希望者の意見をよく聞き、また公開の協議を重ね、事業利用希望者の「不平等感」が残らぬよう確立する事
 2 確立したルールを区内の路上生活者にくまなく定期的に文字情報として情報伝達すると同時に「説明会」を開催する事
 3 ルールに基づく入所選定にあたり、その公正性が担保されるよう第3者の立ち会うを行う事

以上。