この秋、公衆衛生の大きな問題と化したデング熱問題も、第39報発表の159名目の患者以降、新規の感染者はないようで、その発生源である代々木公園の閉鎖も10月31日に解除された。
  新宿中央公園でも11名程度の患者が発表され、一部立ち入り禁止措置などを講じていたが、こちらも時を同じくして解除された。

 代々木公園、中央公園ともにそれ相応の数の野宿者がテント等で起居していたが、デング熱問題に対する対応は新宿区と渋谷区ではまるで違い、解除後の両公園を歩いてみても、その温度差は明白でもある。

 新宿区では中央公園に起居する野宿者に対し、福祉課、公園課が連携しながら個別の相談を繰り返し行い、デング熱ウイルスを持った蚊が生息する場所からの避難を優先させ、ウイルス拡散を防止させると共に、単に他の場所に移動させるのではなく、福祉施策、自立支援施策をピンポイントに行い、路上からの脱却を推進させ、デング熱問題の収束が、公園のテント問題の収束にもつなげることが出来た。もちろん、私たちも、それに全面的に協力をし、大きな声を張ることなく陰ながら共にこの問題の対応にあたった。
 他方で渋谷区では、東京都福祉保健局が援軍として駆けつけたにもかかわらず、結局のところ、閉鎖地域の中のテントはほぼそのまま、そこから移動させられた野宿者は道路を隔てただけの場所(デング熱対策としてはほとんど意味のない場所)に移動させられただけである。

 役所内部でもあまり知られていないであろうが、ホームレス対策として考えた時、この差は何なのだろうかと思うのである。そして、それをしっかりと検証していかなければ、今後同様のことが起こったとしても、結局は現状維持を強いるだけなのではないかと、絶望的にもなる。

 そこに人が住んでいると云う発想が、担当者レベルでも、あまりないのかも知れない。

  新宿区の場合は長年に亘り路上生活者問題を率先して取り組んで来たし、また宿場街だけあって地方から流れて来る困窮層も含め色々な階層の人々と共に歩んで来た自治体だけあって、命に係る問題、健康に係る問題に関しては、人道的対応として、野宿者だろうが誰であろうが、真っ先に反応する体質がある。それは地域行政としての伝統的な美風であり、そんなこともこう云う緊急事態、即応体制では色濃く反映される。
 もっとも渋谷区も気の毒な面もある。今回、代々木公園が発生地であったが 、この公園は都立公園で、その周辺の道路は都道と、行政単位が違うと、綿密な連携が必要となるが、何せ相手のあるものは調整能力が高くないとなかなかうまくはいかない。更にあれだけの数を対象とする資源がない(なければ作れば良いのであるが、今回のような緊急事態では時間的に足らない)、信頼できる民間団体がなく、建設的な議論をせずに対立ばかししている。また、当該地区の野宿者は夜は代々木、昼は新宿と、行政単位をまたいで生活をしており、正確な補足がされていない、などなど。
 そもそも代々木一帯の数を地元行政や公園管理者だけに任せたとしても、 どうにもならないことくらい東京都福祉保健局は知っていただろうが、地域生活移行支援事業以来、それにさまざまな理由で参画しなかったテント生活者の問題を都区共同体制として放置してしまったこと(そのことでボタンの掛け違いが大きくなったこと)が大きな要因なのかも知れない。

 まあ、東京都福祉保健局は良い経験を積んだのではないかと思う。今後、広域的な問題が発生した場合は、調整能力を研ぎ澄ませことに当たることを東京都には期待する。そこに住んでいるのは、私たちと同じ血の通う人間なのだし、また、日々の暮らしを営む人々でもある。ホームレス対策云々を云う前に、危険な状態になったら、より安全な場所に移ってもらうのは、人道的に当たり前のことである。我々がその当たり前を取り戻していけたなら、そう絶望的になることもないかも知れないが。