「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法一部改正案」が2012年6月15日、衆議院厚生労働委員会に委員長提案で上程され、同日の衆議院本会議でも全会派一致で採択され、続く19日の参議院厚生労働委員会、20日の参議院本会議で同じく全会派一致で採択されました。
 この改正案は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法の有効期限を五年延長し、平成二十九年八月六日までとすること」のみで、その他の内容はそのままで、有効期限のみが5年間延長されたものです。

 私たちはホームレス自立支援法の失効が近づくなかでも様々な意見がある中、ホームレス自立支援法は、その目的が達成したとはとうてい言えないのだから、そのまま延長し、引き続き国および地方自治体、そして民間団体が実施する「屋根と仕事」に向けた対策を継続すべきと訴え、3.14国会行動、5.1メーデー行動などを新宿の仲間と共にたたかって来ました。

 まずはこの法律に着目し、延長に向けた努力をして頂いた国会議員をはじめとする各党の皆さん、そしてロビー活動など様々な働きがけをして頂いた支援者の皆さんに感謝申し上げます。ほとんど注目もされていない法律でしたが、実際に野宿を余技なくれている当事者からすれば「希望がつながった」法律の延長でしした。その思いに応えて頂き、本当にありがとうございました。

 

 時を同じくして、こちらもさほど注目されていませんが、私たちの活動地の一つである東京都立戸山公園のテントがゼロとなりました。
 かつては200張りはあったテントを強制排除ではない方法でいかに減らしていけるのか?このテーマは、当時の不況下で緊急避難としてあったテント暮らしを、自立のための法が出来てまでも維持し、地域との無意味な軋轢を招いていくのか?それとも社会へもう一度再参画させるチャンスをそれがたとえ完璧でなくとも官民共同で提供し得るのか?と云う、葛藤(1998年西口地下広場火災事故からの)から選び出していったテーマです。

 2004年に開始された東京都の地域生活移行支援事業(民間アパートへの移行)がその突破口ではありましたが、この大事業が終了しても戸山公園のテント生活者はゼロにはなりませんでした。事業参加は、あくまで選択なのだから残ると云う選択をした仲間も共に支え続けると、私たちは言い続け、この地でのパトロールや相談事業を継続して来ました。そして、もうテント生活は「キツイ」と言う仲間にはNPO部門が運営している「麦の家」など、目の見える社会資源につなげる活動を地道に続けて来ました。そして来年の国体開催に伴う公園整備計画をラストチャンスと設定し、公園管理事務所、新宿福祉事務所との協議を続け、テント各個の説得と共に新たな受け皿を地元の地に確保し、この地でのテントの終焉に責任をもって立ち会う事が出来ました。実に8年もの歳月がかかりました。
 私たちは戸山公園のテントの始まりから終わりまでを長い時間をかけ見ることが出来ました。これから戸山公園が普通の公園に戻る事を見守りながら、私たちの責任もまた果たせたのかなと実感をする事と思います。(もちろん、テントが無くなることと、野宿者が居なくなるのとは違い、戦後から寄せ場と密接な関係のある公園の歴史はまだまだ消えないだろうから、普通の公園とは、20年前の戸山公園に戻っただけだが。)

 私たちが無責任なマスコミの方々にリークせず、また、声高に大騒ぎもせず、しかも、東京都福祉保健局の力もあまり借りず、こう云う事が出来たのも、ホームレス自立支援法があったが故であります。(この地の大勢が決まってから落ち穂拾いのような人々が茶々を入れに来たそうだが、時すでに遅しであった。)
 事業が大げさになれば予算がつく、予算がつくと業界団体が群がる。そうこうしている内に当事者の思いなどはどこかへいってしまいます。しかし、地域単位ならば、今の法の範囲内で、また、新宿区で云えば「新宿区ホームレスの自立支援等に関する推進計画」があるのですから、既存の施策や民間の多少の努力、そして各部署との調整力がありさえすれば、このような「後始末」は出来るのです。地域からの排除は圧力は法があったとしても、それは変わりようがないのですから、排除はイケナイといくら言ったとしても、あまり意味のない事です。この相反する利害を調整する事にこそ民間団体の存在意義があるのですし、そして、このような地域の環境を作りあげて来れたのがホームレス自立支援法の成果であると考えます。「当事者の声」と念仏のように繰り返す人も居ますが、当事者の声と云うのは実に様々あり、その最大公約数を客観的に見いし、組織し、調整する能力がない人が支援者呼ばわりされている現状は実に滑稽でもあります。

 さて、ホームレス自立支援法が延長されたと云う事は、この問題の「解決」に5年の猶予が与えられたと、私たちは考えています。残り5年でどこまでが出来るのか?これはやって見なければわからない事ですが、この問題の「解決」のための「総仕上げ」をどのように完成させるのか、その気概がなければ、単にダラダラとした時間稼ぎの延長にしかなりません。恒久法を作るなどと云う議論もあるようですが、もし恒久法と云うのであれば、この5年で今、野宿を余儀なくされた多くの人々が野宿をかろうじて脱却できると云う環境を作らない事には、野宿防止法的なものは絵に描いた餅にしかならないでしょう。東京において、そこら辺は先の東京都要望に書いておいたので、こう云う観点から今後5年を私たちは迎えたいと思います。

 ホームレス自立支援法の10年の成果は何であったのか?そして、今後5年にどのように発展させていくのか?そして、ホームレス自立支援法の「真の目的」は何であるのか?私たちはそう云う事を真剣に考え、答えを出して行きたいと思います。

 

 

                                 2012年6月20日

                                             新宿連絡会 事務局