ホームレスの自立支援に関する要望

東京都知事 石原慎太郎 殿

東京都福祉保健局長 安藤立美 殿

 

 

特定非営利活動法人新宿ホームレス支援機構
新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)

 

平成20年12月15日

 

  本年1月の厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査」によると、いま日本では、16,018名に上る人たちが屋根のない路上での生活を強いられています。
 東京都においても本年8月の「平成20夏期路上生活者概数調査」によると、3,840名に上る人たちが屋根のない路上での生活を強いられています。
 しかもこれら調査におけるホームレスの定義は「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所として日常生活を営んでいる者」として、いわゆる「目視可能な路上生活者」に限られています。実態はこれらの調査よりも更に多く、かつ深刻である事が窺えます。
 金融危機に端を発するとする世界規模の不況の中、既に「雇用調整」の名の下、多くの日雇労働者(寄せ場労働者)、派遣労働者、期間労働者が真っ先に職を奪われ、正規労働者でさえ雇用不安の中で暮らさざるを得ない状況に至っています。
 昨今社会問題化しているネットカフェで寝泊りしている人々やワーキングプアに象徴される労働者や自営業者の困窮の度合いでは、今後新たに路上生活を余儀なくされる人々が一気に増加する恐れが高まっています。
 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」による新たな基本方針が策定された今こそ、そして前述したようホームレス問題にとって極めて厳しい状況にある今こそ、各自治体がこぞってホームレス問題の早期解決のため最大限の努力をしていく時期であろうと考えます。
 また、東京においては、2016年の東京オリンピック誘致運動が都民一丸となってなされております。この誘致運動を成功させ、また恙なく全世界の人々を招き入れ、オリンピック競技を東京で実施するためにも、今の段階からホームレスの自立支援施策を強化し、都市の景観を整備していかなければならいと考えます。

 そのため、下記の点について東京都において取り組まれるよう要望するものであります。

  1. 新実施計画の策定に関して

 平成21年度からの新たな「ホームレスの自立の支援等に関する東京都実施計画」を策定するに当たり、先の実施計画(平成16年から平成20年)で強調された「住宅・就労対策の具体性」すなわち『「自立支援システム」の運用と「ホームレス地域生活移行支援事業」の展開を中心とした総合的な対策の推進』と言う基本目標を、これまで取り組んで来た施策の実績、効果を踏まえより堅持し、発展されたい。
 
2、自立支援事業の実施に関して

 ホームレス問題は第一義的には国が総合的な施策の構築や財政措置などの責務を果たすべきであるが、都区共同事業として実施されている自立支援事業において、共同事業としての役割分担はありながらも、特別区間の「温度差」により具体的施策の構築及び実施に当たり調整が遅れる等の「混乱」が常態化している。
 都区共同事業の中での東京都の役割を更に強化し、かつ十分な財政措置を講ずる等の工夫をすることにより、より地域の現状に則した施策が実施できるよう実施体制を改められたい。

3、自立支援センターの運営に関して

 自立支援システムの中心である自立支援センター等、自立支援関連施設の今後の計画、運営に当たり、国の「新基本方針」にあるよう、既存宿泊施設、既存アパート等を利用して自立支援事業が必要に応じて広く実施できるよう改められたい。
 また、現在の緊急一時保護センター機能を緊迫性のある路上生活者の緊急援助制度として位置づけ直し、シェルターとして新たに設置するよう講じられたい。

4、ホームレス地域生活移行支援事業に関して

 地域生活移行支援事業の対象者たる公園、河川敷等で起居する路上生活者は未だに多く、とりわけ国管轄河川敷については、これまでも何も手をつけていない事から、国(国土交通省)と連携し、地域を限定しての新規事業の受付を再開するよう講じられたい。

  1. 就業機会の確保に関して
  1. 公営住宅の入居斡旋、低家賃住宅の確保に関して

 住宅確保の困難さがホームレス問題の大きな課題である事を鑑み、公営住宅の入居斡旋について更に強化すること。
 また、低家賃住宅の確保について都及び特別区が借上げ、一定の期間低家賃で貸し付ける事業を、一律月3000円とするのではなく、その人の収入や生活展望などに応じた額にする等の工夫をし、広く活用出来るよう改められたい。

  1. 入居保証人の確保等に関して

 入居保証人の確保については保証会社が近年多く発足しており、保証人がただちに困難な人は金銭でそれをカヴァーする手法が定着しているが、肝心な事は入居後のアフターケアである。アフターケア付きの保証があれば大家も安心して貸す事が出来き、また安定した居住生活が可能である。アフターケア付きの保証と、理解ある大家、不動産屋の確保のための仕組みを早急に講じられたい。

8、保健及び医療に関して

 ホームレス問題における保健医療の問題とは、清潔な環境で、かつ治療に専念できる場所の確保につきる。重篤な場合は生活保護による入院や保護が可能であるが、そうでない場合でも療養が可能な場所の確保に努められたい。また、緊急援助制度を新設し、シェルターを設置し、治療に専念できるような環境作りを講じられたい。
 その上で、医療相談等、病気の早期発見が可能な仕組みを更に強化されたい。
   
9、生活に関する相談・指導に関して

 巡回相談事業が既に実施されているが、現状は単なる一方通行の広報活動でしかなく、親身にホームレスの話しを聞き、そのニーズを分析し、社会資源につなげていく機能としては十分機能していない。巡回相談員に自立支援システムの利用権限を付加する等、現状に則して活動できるような措置を講じられたい。
 また、民間支援団体における夜間巡回等と連携するなどその巡回先をより広くするよう工夫されたい。

10、緊急に行うべき施策に関して

 路上生活を早期に予防する、路上生活の長期化を予防する、路上生活者の保健、医療へのアクセスを軽減させる、これらの観点からするシェルターを中心とする緊急援助制度(フランスにおけるサミュ・ソシァル制度などを参考にし)を新たに講じられたい。
 また、冬期において厳冬期宿泊事業など、季節的困難からホームレスを守るための人道的な施策をより強固に講じられたい。
 
11、生活保護法による保護の実施に関して

 生活保護における保護適用がより大きく進まない要因は、保護施設等の不足、及び実施機関の財政負担、また人員配置の問題である。基準を設け優良な無料低額宿泊所の積極的な設置、また、費用負担問題に対する新たなルールの策定、また相談業務など民間へ委託を促進させるなど、実施機関がスムーズに生活保護が適用できるような環境を作るよう講じられたい。
 また、無料低額宿泊所については、入居後の各種相談、サービス提供、稼働年齢層の再就職の支援等を積極的に実施できるよう、優良な事業体への人件費補助等財政的な措置を講じられたい。
 
12、住居喪失不安定就労者の支援に関して

 新基本方針ではホームレスの予防の観点から住居喪失不安定就労者へ就業機会の確保、雇用の安定化、シェルター等による居住の場所の確保など野宿にならないための施策の必要性を強調している。
 とりわけ重要なのは、不安定な居所の状態のままでは再就職の支援が極めて困難である事である。そのため、緊急援助制度等を新たに策定し、シェルター、宿泊所等、安定した居所を早急に提供する事であり、そのための諸施策を策定するよう講じられたい。

13、関係団体の役割と連携に関して

 東京において炊出し等、直接路上生活者の応急援助を担い、実態を最も身近で把握出来るのは民間のボランティア団体である。NPO団体や社会福祉法人への事業委託はこれまであったが、それのみに留まらず、現場の調査研究、施策策定、変更、その点検等についても関係団体と意見交換等を定期的に行うなど、より一層の連携が図れるよう講じられたい。


以上