東京都が「生活保護を変える東京提言」を発表しました。

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 東京都保健福祉局は2月2日、「生活保護を変える東京提言」(東京都試案)公表し、2月末まで都民からのパブリックコメントを募集し、国に提出すると発表しました。
 さまざまな角度から生活保護制度の見直しが議論されているなか、昨年度から国の提唱で実施されている「自立支援プログラム」はまだまだ十分ではないとし、保護受給期間の長期化、医療扶助の増大化が問題であると、「就労自立促進の更なる強化」「予防医療の観点を導入した保健、医療面での自立促進」「早期自立のための新たな仕組み」「推進体制の整備」を4つの提案としてまとめたものです。

  以下雑感

 まず、前提となるのは、路上生活者を路上生活者のままで放置し続け、その状態を長期化させればさせる程、最終的に傷病により生活保護が受給されたとしても、その者を治療回復、または就労等自立に導くための社会的なコストはそれと比例して高くなると云う事である。
 生活保護世帯の増加、またそれに伴う支出増を憂う前に、路上生活者の早期発見の体制、また路上生活を無闇に長引かせない方策として一時的なシェルター等での相談体制と早期処遇の決定、もしくは、拠点的な相談による通所相談体制と早期野宿脱却支援、そして一度シェルター等、行政支援策に参画した者を二度と路上に戻さないための、ニーズに即したと意欲喚起策と多様な選択肢をもった自立支援策もしくは、一時的な生活保護による支援策が必要であり、そのための総括と展望を示さなければこの種の提言はあまり意味をなさないものとなるのではなかろうか?
 東京都のこれまでの生活保護行政の路上生活者に対しての有り様は、窓口で待機しているだけの受動的な態度、特定の宿泊所に入寮した者以外は重度の傷病もしくは高齢などを理由(就労不可者)しか受給に導かない制限的な運用。また、たとえ受給が開始されたとしても、そのほとんどは2種宿泊所や簡易宿泊所による保護の開始であり、大阪市のよう敷金礼金支給はせず、ケースワークも就労支援もほとんどなされず宿泊所等で長期に滞留させたまま、「居宅推進」とはまったく縁遠い気質。本人が強く希望しアパート等での生活に移行したとしても、これまた訪問回数も少なく、たまに会えたとしても「口だけの就労指導」のみの無責任体質等が批判点として常々指摘されてきた。
 確かにこれらの負のイメージを払拭しようと、宿泊所に対するガイドライン作成、また生活保護費の増大に何とか歯止めをしようと東京都や各福祉事務所が自立支援プログラム等による自立促進施策を実施し始めたのも事実であり、これらの効果(単に保護費問題だけではなく、受給者が生き生きとし、就労意欲が換気されると云う相乗効果と云う意味で)もじょじょに発揮されつつあるのも事実であろう。しかし「提言」でも触れられている通り、それは未だ一部の福祉事務所でしかない。
 路上生活者対応では、生活保護行政の他、主に福祉事務所が中心となって実施されている路上生活者自立支援事業があるが、この自立支援事業の出口にはほとんどの場合生活保護行政が待っていてくれず(就労努力をしたにも係らず自立するに足りる就労が叶わないケースにも)に、期限切れを理由にした再路上を無闇に許している(もうそれは構造化しつつある)。こう云う構造が自立支援事業の中心事業に据えている自立支援センターにある。同じ機関が実施しているにも係らずお互いの制度が連携をせず、そっぽを向いているのが現状である。東京の場合、更にこれに加えて山谷地域を中心にした日雇労働者対策、いわゆる山谷対策体系があり、これもまた同様に連携はされていない。
 もちろんそれぞれの制度に改善が必要なのではあろうが、何故連携がされないのかを考えれば、やはり就労可能層が生活保護を受給する事に対する抵抗が未だ根底にあるのではないかと考える。つまり就労に対する見方が「黒か白か」で判断する画一的な発想であり、制度を設計する者が公務員故に今日の中高年齢者の厳しい雇用情勢を理解する事もなく「仕事があるから努力すれば何とかなるだろう」的、しかも中高年齢者が必死に働いてどの程度の収入しか得られないかも知らずに「仕事につけば自立できるだろう」と考える、そこの部分が問題なのではないか。これだけの制度を揃えたとしても、この人にはどう云う社会資源が必要で、どのような自立が考えら得るのか、そしてどう施策を連携させていけば良いのか?この当たり前の発想が、「生活保護行政は路上生活者、とりわけ稼働年齢層の路上生活者を忌み嫌っている」が故に起こらない。そして、この点に根本からメスを入れなければ、生活保護が現在おかれている現状はさほど変わりはしないであろう。
 提言にある要保護者早期自立扶助制度の新設は賛成である。しかし、その「出口」に本来の生活保護は待っていてくれるのか?100%効果が発揮される施策などあり得ない。そこからこぼれ落ちてしまう者も出てくるだろう。けれども、こぼれ落ちた者を再び路上に戻すようなら生活保護を変えると云う本来の趣旨から外れるのではないか。
 自立支援ホームは何やら新しく感じられるが、内容的には更生施設機能ではないか。本来の更生施設を増設、または回転率をあげる努力ではなく、今ある宿泊所を見栄えの良い施設に形だけ転換するのであれば、「宿泊所にとにかく入れておけば安心」と云う、居宅推進の対局にある発想に打ち勝てないであろう。これなど国の整備の問題ではなく、都の努力の問題なのではなかろうか。
 多重債務解決の新たな仕組みは、まあこれで良いだろうが、ケースワーカーの外注化は本来増やすべき職員を増やさずに安易に民間へのアウトソーシングに流れるのは、時流とは云え感心はできない。そもそもコーディネーターがいても、前述した通り、各施策が連携せずに在るなら、いかに能力があっても仕事は進みはしないだろう。

 国にもの申すのもよいが、東京都や各福祉事務所はその前にやるべきことは多々あるように思われる。

 財政の考え方のみで福祉を変えようと云う試みが間違いなような気がするし、そう云う事が読み取れてしまうだけに今回の「提言」は路上から見た時、どうもしっくりと来ないし、名文とも思えない。

(文責/笠井和明)