2007年東京マラソンで新宿路上に何が起こったのか?
ホームレスも協力した東京マラソン
  2007年2月18日、アジア最大規模を目指したと云う「東京マラソン2007」が開催され、雨天の中、スタート地点の都庁正面玄関前を中心に、都庁周辺、中央公園周辺が道路規制、歩行規制の中、3万人以上が集まった。
 ホームレスとマラソンと云うのはほとんど何も関係がないように思われる。が、既に昨年末頃からこの大会の成功のための様々な努力が単なる警備側面だけではなく、ホームレス対策分野においても模索されてきた事はほとんど誰も知らない。
 この種の大会が開催される場合はたいがいがホームレス等は「排除」され、街は「美化」される傾向にある。大きなものを作ろうとする場合、悲しいかな小さな問題は邪魔者として扱われるし、大きなものを作ろうとする者は可能な限りその場所を整備するのは、ある意味仕方のない問題なのかも知れない。
 今回の場合、事は単なるマラソンではなく、オリンピック誘致がらみの行事である。この事で新宿駅周辺や都庁下、また中央公園を中心に路上やテントで暮らす人々がどう云う運命になるのか?おそらくほとんどの人々は眼中になかったろうが、心配する者は心配した。そして心配して大騒ぎをして無責任な人々を巻き込むのではなく、責任を持ちたいが故に、様々な模索を水面下で起こした。
 結果的には成功しなかったが新宿区が施策の網を張ろうと早々に動いた。実は連絡会もこれに同調した。大会の影響のある地域の人々を対象に重点的に施策を施し、「排除」や「美化」を無意味なものにしようとする試みであった。大会があるかないかはともかく、冬場の緊急避難としても、路上生活者対策としての筋論としては、これは正しい試みであった。しかし、いろいろな紆余曲折があってこの計画は頓挫した。悲しいかな23区と都での共同しての対策をしましょうと云う「掟」は、こういう重点的な施策にはあまり向いていないようで、端的に言って時間が足りなかった。
 東京都の福祉サイドは新宿区とは別な方向で心配した。大会サイド、警備サイドが都区とは関係なく「対策」(勝手な排除)をしないよう、大会とホームレス対策は別であると云うスタンスを取った。重点的な対策をしない代わりに、対策は対策、大会は大会と云う態度である。
 違う方向を向いていた新宿区と東京都であったが、共通するのは「大会の開催でホームレスの人々に悪い影響を与えてはいけない」と云う点であった。  この広い意味での対象地域には中央公園の30弱の「テント」と数多くの「荷物」があり、100名前後が影響下に置かれた。
 おそらく警備当局との攻防はあったのであろうが、結果的に中央公園のテントはそのまま。都庁下の駐輪場周辺の荷物もそのまま。歩行者規制が入る区域だけ「荷物」をどかすと云う合意がなされた。更に移動期間は17日から18日昼間までの一泊二日のみとなり、当事者への影響は必要最低限のものとなった。更に中央公園管理事務所は移動困難なものへの協力をし、第三建設事務所も警告書を張ったにもかかわらず放置されている荷物は前日撤去を行うが、保管をし、19日には元の位置に戻すと云う異例の措置を取った。
 福祉サイドだけではなく、管理サイド、警備サイドも、「大会の開催でホームレスの人々に悪い影響を与えてはいけない」と云う共通認識だったと考えられる。
 もちろん、その都度、あちこちで連絡会が顔を出したり、口を出したりしたのは言うまでもない(今回は「手」は出さなかったが)。
 連絡会は大会開催に協力するようチラシを出し、荷物の自己管理を徹底するよう呼びかけた。その結果、誰かに頼るのではなく、歩行規制地域内に居る仲間は、自分達で移動先を見つけ、それぞれ協力しながら荷物移動を整然と行った。連絡会は最悪の事態にならない限り異動先を指示しない(歴史的に云えば、96年1.24事件後と98年2.14自主退去時のみである)。これはおせっかいである。自分の荷物は自分で責任を持って管理する。これはあまりにも当然な事であり、連絡会は当然な事を言うだけである。
 もちろん、例外があるので17日から18日の朝にかけ対象地域の見回りを泊まり込みで行い、荷物移動困難な仲間にはアドバイスをしたり、手を貸したりもした。生憎の小雨模様であったが、雨の日だけ軒下を貸してくれる都庁第二庁舎下の警備員も、雨宿りする十数名の仲間を追い出さず、規制が始まる午前5時までそのまま寝かしてくれるなどの配慮もみせてくれた。

 オリンピック誘致としての東京マラソンが成功したかどうかは分からない。また、東京マラソンそのものの是非についてはここでは触れない。けれどホームレスへ対応と云う点では適切な対応な大会であったと言える。こう云う事実を何も知らない連中や東京新聞のような三流マスコミが「排除のための大会」とか批判するかも知れないので、早めにここで言っておこう。そして、もし、東京にオリンピックが誘致され、その時にまだホームレス問題が解決していなかった場合(そうならないことを切に願うが)、今回の大会を思い出し、このような対応をしてもらいたいものだ。
 大げさに言えば、知恵と思いやりのある東京の都市としての成熟度は、無闇やたらな「ホームレス排除」などせずともこのような大会は開催できる。

 この事が証明された良い大会であったと私たちは思う。

(文責 笠井和明)