東京都保健福祉局はもはや恒例ではあるが、本年8月の路上生活者概数調査を10月に公表した。
それによると23区の路上生活者数は3,176人であり、前年同期より約500人減少となり、調査を開始した平成6年度以降最も少ない数値とされ、自立支援システム及び地域生活移行支援事業の成果が着実に現れていると分析されている。
区別では、昨年度地域生活移行支援事業を重点的に実施した墨田区、台東区、渋谷区が大幅に減少し、また施設別では同様にその実施施設でもある区立公園、都管轄河川敷(隅田川)が減少している。
地域生活移行支援事業を重点的に実施した区なり施設での減がストレートにこの概数調査には反映される事は、毎年の概数調査に注目している私たちがこれまで分析なり評価して来たところであり、さほど驚くことでもない。世間ではあまり評価されておらず、また知られていないようであるが、これほどまでの事業を大規模な予算をかけ実施しているのであるから数値に反映されない筈はなく、もし仮に反映されていないとすれば、それこそ大問題である。
また、3,176人と云う数値も(国管轄を除く)23区内の数値ではあるものの夏期調査において過去12回の調査の中で最も低い数値である事は事実であり、一つの指針と考えるならば、路上生活者数が毎年増え続ける一時のピークはようやく過ぎ、この問題が騒がれ始めた当初期のレベルまで落ち着いたとも言えるであろう。
ちなみに、このグラフと完全失業率グラフを重ね合わせるとほぼ同様の傾向で推移していることが分かり、景気動向もその大きな要因であることも見え隠れもする。
大きな視点で言えば景気の停滞期に自立支援システムが構築され、就労可能層がそこへ流れ、また病弱者等生活保護対象者には2種宿泊所が活用され、そして続いて「自立支援法」が制定され、法的な根拠を持った就労自立に向けた施策の前進が図られ、更に重点地域に対しては地域生活移行支援事業でローラー作戦(?)をかけと、総じて施策の前進をこの時期にたゆみなく続け、景気回復と連動して来たが故の成果であろう。
こういうことは誰も評価せず、マスコミや一部支援団体は未だ「ホームレスVS行政」の構図が大好きで、一方的な情報を垂れ流すものだから、なかなか世間には伝わらない。まあ、これら施策を前進発展させて来た官民の関係者は「縁の下の力持ち」と云うところか。
と、云う訳で私たちはこの概数調査の結果は評価に値する数値であると考える。
他方で、元の数値に戻っただけと云う感も否めない。(国管轄を除く)23区内の数値に市部調査数を加えると3,336人、そしてそこへ国管轄河川文を加えるとあっと云う間に4,441名。東京都内で見える形での路上生活者数が未だ4,441名もいるのである。一時よりは確かにマシになったかも知れないものの、路上生活者問題は未だ東京の各地で生じている広域的な課題であり続ける事はこの数値を見ても明らかである。
悪い数値は私たちの地元の新宿区でも現れており、一時1,000人を超えた概数が、地域生活移行支援事業の集中的な実施等により昨年度は372名まで減ったものの、今年度は逆に451名と逆に増加している。また地域生活移行支援事業未実施(今年度秋実施)の豊島区も同じく昨年度133名から本年度192名に増えており、今後の推移が注目される。
おそらくは、景気の回復だけに頼っていては駄目なのであり、そこにリンクしていく施策が継続的に実施されていかない事には、この問題での決定的な「解決」は遠ざかるばかりなのであろう。そんな事も見え隠れする調査結果である。
元に戻った水準で、更にどのように進むのか?知恵の出し所である。
(笠井和明)