通常国会会期が半ばとなりホームレス自立支援法の制定問題は正念場に入って来ています。与党三党案がまとまり、野党との協議の末、全会派一致で法案が制定されるのか、それとも鈴木宗男問題などで混迷する国会の影響でまたもや棚上げになるのか、私たちは3月第7次キャンペーンをたたかい、29日には雨の中100名規模での国会前集会(大阪から代表団も上京)と与党三党に対する要請行動を行い、通常国会の中の法案制定に向けての確かな手ごたえを勝ち取りました。
要望書

 「ホームレス自立支援法案」策定にあたり、たいへんなご努力を重ねておられますことに敬意を表します。私たちは、先日のヒアリングの席上でも申し上げましたとおり、野宿を余儀なくされている人々をいわば「経済難民」と捉え、それらの人々の「人としての権利」が十全に保障されるよう、法律が策定されなければならないと考えております。貴チームにおかれましても、このような考え方の基本線で合意が図られようとしていると伺っております。
 大都市に限らず、県庁所在地、中核都市に及ぶまで、全国のあらゆる都市で、野宿を余儀なくされる人々が増加しており、自治体委託による研究者の実態調査も多数報告されています。調査の結果は、冒頭に書いたように、これらの人々が「経済難民」であることを裏付けるものとなつているのですが、最近公表された名古屋市の「ホームレス」聞き取り調査中間報告には、「公園等の公共の場で生活せざるを得ない『ホームレス』に対し、個人の責任に帰するとした見方を改めるとともに、公共の場を不法に占拠している者としてのみ捕らえる見方から脱却し、地域社会の一員として社会生活が営めるよう、雇用、住宅、保険、福祉各分野からの総合的な支援と新たな認識が必要である」と述べられていました。これまでの実態調査報告書には、野宿者の公共空間における定住については、「住民と軋轢を起している」という判断が示されたものもあつたのですが、そのような考え方をしていたのでは、野宿者問題は解決しないとの認識が社会に広がり始めている証拠だと考えます。
 野宿者支援施策が国の法律として制定されることの意義はたいへん大きいと私たちは考えています。大阪圏の寄せ場労働者が集中していた釜ヶ崎でさえ、寄せ場経験のある野宿者は6割、東京の山谷経験のある野宿者は4 割という調査結果が出ており、さらに、寄せ場が存在しなかつた都市では、野宿者対策を打ち出すことは困難を窮めるという地方自治体の意見があがつているからです。寄せ場対策はこれまで、「建設労働者の雇用改善等に関する法律」により、日雇い労働者の募集従事者認可の地域が指定されている以外には、生活保護法さえも大阪市立更生相談所・東京都城北福祉センターにより制限された運用がされてきました。労働省(当時)の「建設労働者の常用化推進」策の実態が建設産業の末端の人夫出し飯場の増殖に過ぎなかつたという事実は、日雇い労働組合による労働争議や研究者により明らかにされています。更生相談所の生活保護行政については、違法であるとの司法の判断が三月二二日に示されたばかりです(釜ヶ崎労働者佐藤邦夫さんの「野宿から居宅保護を求める裁判」)。全国に野宿者が広がる現状を踏まえ、また、寄せ場労働者の、憲法に保障された生存権が侵害されてきた状況を永らく放置してきた国の責任として野宿者の支援対策が法律に基づく形で展開されることを私たちは切に望んでいます。
 野宿者をめぐる情勢はたいへん厳しいものになつてきており、東京都台東区では、現金収入を得るためにやむなく空き缶集めをしている野宿労働者を取り締まろうという「空き缶抜き取り防止策」なるものが予算化されました。さらに、空き缶抜き取りを取り蹄まる民間のガードマンは「特別雇用交付金」で雇用されるというのです。野宿者こそ、雇用交付金など、行政の雇用創出施策によって雇用されるべきであるという認識を台東区は一切持たず、ぎりぎりの命の糧さえ奪おうとしているのです。このような動きは早急に制止されなければなりません。
 野宿者の基本的人権が保障されれば、公共空間はおのづと適正化されることでありましょう。野宿者の基本的人権を保障するものとして「ホームレス自立支援法」が策定されることを本日、重ねて要望致します。
二〇〇二年三月二九日
           釜ヶ崎支援機構 釜ヶ崎反失業連絡会 新宿連絡会 池袋連絡会 三多摩野宿者人権ネットワーク 野宿者・人権資料センター

与党三党ホームレス問題に関するワーキングチーム御中

(当日のチラシ)

ホームレス自立支援法の早期成立を!
就労自立を望む野宿者に、仕事と屋根の確保を支援していく制度を早期に制定すべきです。野宿をしなくともやり直しのできる社会を共に作りましょう!

 私たちは都内各地で野宿者を支援しているNGOです。
 産業の空洞化、倒産件数の増加、失業率の悪化と厳しい日本経済が続いている中、全国の野宿者数は一昨年から20%近くも増え、厚生労働省の調べでも2万4千を越しています。そのほとんどが失業など経済的な要因を理由として路上生活をせざるを得なくなり、また、8割近くの人々が就労を望んでいますが、野宿故に安定した就労に就けず苦しんでいます。
 私たちはこの国に、せめて野宿に至った人々の自立を支援する程度の制度が必要だと考えています。野宿に誰も好き好んでなった訳ではありません。これまでこの国の経済を支えて来た人々が、社会的、経済的な何らかの「失敗」や「不幸」の結果、野宿をせざるをえなくなっただけです。「もう一度やり直したい。」「貧しくとも仕事をし、あばら屋でも良いから地域の中で普通な暮らしがしたい」そう多くの人々が願っています。
 野宿の状態のまま雇ってくれる会社はそう多くはありません。いくら「やる気」があっても自分の力で野宿から脱する事はたやすいものではありません。
 けれども、身体を休め、住民票がおけ、連絡先がある場所に一定の期間宿泊し、就職活動や住宅確保を支援するだけで、野宿の人々の自立が可能であるという事は、東京都が一昨年から小規模ながらも開始している自立支援センターの成果を見てもはっきりとしています。これまで874名の野宿の仲間が利用し、その内、402名もの人々(46%)が平均3ヶ月程度の支援の中で就労自立を果たしております。東京の自立支援事業はまだまだシステム的には完成していませんが、それでさえこれだけの人々が元の生活に戻る事が出来たのです。
 様々な方法の知恵を絞り、社会の支援の力を集中させていけば、何も行政が野宿者の生活すべてを長期にわたり面倒をみなくても、自らの力を発揮できる人々は多くいます。仕事へのアクセス、住居へのアクセスをちょっとの間だけバックアップさえすれば、自らの能力を発揮できるのです。
 私たちはそういう自立支援事業を国が責任をもって全国一律で行うべきだと考えます。そして、失業者や生活困窮者が野宿にならなくても良いような予防策も同時に全国一律で行うべきだと考えています。
 東京都などは、自立支援事業に法的な裏付けがない事、国の財政補助が少ない事、労働政策、住宅政策の中央省庁が施策に責任を持っていない事で、有効に働く事が証明されつつある自立支援事業を拡大できずにいます。いくら東京都や大都市の自治体が先駆的な試みを行ったとしても、全国的に野宿の予防策がなく、地方から次々と職を失った人々がやって来、焼け石に水の状態が続いています。もはや、地方自治体にまかせるだけの対応では限界となっています。国が責任をもってホームレス対策を行うという姿勢こそが問われています。
 2月6日の衆議院本会議において、民主党鳩山党首の質問に対し、小泉首相は「今後とも地域の実情をふまえつつNPOとも連携を計りながらホームレス対策の推進に努めてまいります」と前向きな答弁しました。ならば現在厚生労働委員会で「つるされている」状態の「ホームレス自立支援法」を一日でも早く制定させるべきでしょう。
 与党三党も「ホームレス問題に関するワーキングチーム」で真剣な議論を重ねているようですが、悠長に構えていられない問題であるとの認識を持ち、早急に結論を出すよう努力すべきと思います。
 私たちはいつまでも待ってはいられません。「ホームレス自立支援法」は「金にも票にもならない」ので後回しにしても構わないなどと決して思わないでもらいたいのです。国民の最低限度の生活を守るのは政治の、国の大きな仕事です。国会議員の様々な「金まみれの疑惑」で国会が空転している間にも、全国で野宿者が増え、また路上で人の命が失われているという事を是非とも考えてもらいたいと思います。
 私たちは「ホームレス自立支援法」を一日でも早く制定してもらい、明日への希望をもちながら路上から脱却したいのです。その願いを是非とも理解してもらいたいと存じます。私たちは国会議員の方々にお任せするのではなく、自分達の声を少しでも聞いてもらおうと、こうして議員会館の前で座り込みや集会を行っています。
 また、4月26日には国会への大規模な請願行動を行っていく予定でいます。
 多くの方々が私たちの必死の声に耳を傾けられん事を期待しています。私たちには何も政治的な力はありません。私たちは有りのままの姿で、有りのままの声をあげるしか手段はもっていません。それでも、決して政治に諦めず、私たちが希望を必ずやこの手に勝ち取るまでたたかい続けて行きたいと考えています。
 このチラシを手に取った方々が、私たちと共に声を出されん事を強く訴えます。