申し入れ書
本年11月、我々の念願であった自立支援センター「台東寮」「新宿寮」が相次いで開設し、遅ればせながらも本格的な自立支援事業が開始されたことは、誠に歓迎すべきことであり、貴課を含む関係者の尽力に感謝いたします。現在、二ヶ所のセンターでは各区からの入寮者が求職活動に励んでいますが、事業プログラムについては硬直化することなく、入寮者や関係団体との協議のもと、柔軟な姿勢でさらなる充実を図っていくことを強く望みます。今回は、「新宿寮」の入寮者の声をもとに事業プログラムに関して、いくつかの点で申し入れを行ないます。
1、求職活動に際しての経費負担及び日用品代の支給方法について本事業は言うまでもなく入寮者の就労自活を目的とする事業であり、求職活動に関する経費は事業主体の側から出されるべきだと考えます。しかし現実には、面接の際の交通費は支給されるものの、履歴書に貼る写真代やその郵送費などは本人負担になっています。入寮者には日用品代として一日400円が支給されていますが、これは生活関連の雑費で消えていく程度の額であり、そこから求職活動関連の経費を出していくのは支給の趣旨からも外れています。求職活動に際しての経費は最大限、事業主体から出されるべきだと考えますが、その範囲を明確にしていただきたいと思います。また関連して、日用品代の支給が現状では月2回の後払いになっているため、入寮時期によっては半月間、無一文で過ごさなければならないケースが出ています。この件については、全面的に前払いに転換するなど対応を改善すべきかと考えますが、いかがでしょうか。
2、アルバイト、日雇仕事の位置づけについて現在、入寮者のアルバイト、日雇仕事への従事は一律禁止されていますが、入寮者からは強い要望があります。大阪府の自立支援センターでは、府が予算をつけ、「常用適応訓練」として6週間の軽作業労働を入寮者に提供していると言います。常雇用の仕事を見つけるという前提を踏まえた上で、自立生活に向けた貯蓄や体慣らしのためにアルバイト、日雇労働を位置づけることは有効な手段だと考えます。職安で一度に求職活動ができる件数は限られており、入寮者からは面接結果待ちの時間を有効活用したいとの声があがっています。この点に関しては98年度の暫定実施の際にも議論があり、最終的にアルバイトが認められた経緯があります。今回の本格実施についても柔軟な対応をお願いします。
3、就職支度金の支給について就職支度金の支給については採用通知が出た後という運用がなされていますが、事業主によっては研修期間が一ヶ月程度あり、その後に採用通知を出すところもあります。その場合、入寮者は研修期間中、交通費等の捻出に困難を抱えることになります。就職支度金についても、前払い制度を含め柔軟な対応をお願いします。
4、転宅費用支給の基準についてアパート確保にあたっての転宅費用について、新宿寮では相談員から「社会保険のない仕事に就いた人には転宅費用が出ない」という話があったということで、入寮者に動揺が広がっています。特人厚宿泊所を活用した暫定実施に比べ、民間アパートへの移転を基本とする今回は、アパート確保にあたって様々な困難が予想されます。自立生活に向けた最低限の基盤として転宅費用の支給は柔軟に行われるべきだと考えますが、その支給にあたっての基準を明確にしていただきたいと思います。
5、寮内での面会について全都野宿労働者統一行動実行委員会(全都実)に参集する各団体は、この事業に参加する当事者の利益を第一に考え、入寮者に対して多様な支援を行なっていきたいと考えています。就職やアパート入居にあたっての保証人問題など現在の事業の枠組みでは対応できない問題についても、入寮者の相談に応じて民間レベルでの支援を行なっています。しかし、こうした相談・支援活動を行なっていくのに際して、寮内での面会が認められていないことが大きな障壁になっています。本事業を民間との連携のもと、更に発展させていくためにも、全都実参加団体の寮内での面会を認めていただきたくよう、施設管理者と協議していただきたいと考えます。
以上、ぜひ入寮者の声に沿った形でのご検討をお願いいたします。
自立支援センター「新宿寮」入寮者有志
全都野宿労働者統一行動実行委員会(全都実)
台東区日本堤1-25-11山谷労働者福祉会館気付電話 090-3818-3450(笠井)
申し入れ書
東京都福祉局生活福祉部保護課長殿
特別区福祉事務所長会幹事長殿
特別区人事・厚生事務組合厚生部業務課長殿
2001年4月20日
昨年11月、自立支援センター「台東寮」「新宿寮」が開設して、5ヶ月が経過しました。私たちは各寮の入所者に対して、定期的な面会活動、就職時やアパート入居時の保証人の提供、弁護士による借金問題講習会開催など、独自の相談・支援活動をおこなってきましたが、そうした活動を通して、硬直した事業プログラムや脆弱な相談体制等に対する多くの入所者の不満の声を聞いてきました。そうした問題点の一部については、すでに昨年12月26日付け東京都福祉局あて申し入れ書で明らかにしましたが、開所時に入所した「一期生」が全員、寮を後にしたこの時期に改めて改善すべき問題点をまとめましたので、申し入れをおこないます。東京都福祉局が今年3月に発表した白書「東京のホームレス」においても、対策の推進に向けて民間団体との「情報交換、意見の交換」が必要であるとの認識が示されましたが、多くの野宿者が抱いているこの事業への期待を裏切らないためにも、当事者の声に基づいた要望を真摯に受け止めていただきたいと思います。
まず第一に、事業プログラムの前提となっている「原則二ヶ月で就労を確保し、四ヶ月以内でアパートを確保する」という規定自体が入所者の多くにとって厳しすぎるものになっています。就労先を確保できなかった者が二ヶ月で路上で戻されるケースも多数出ており、いったん就労したものの職場で負傷し離職したため、「四ヶ月間で就労自立につながる見込みがない」と見なされて退所させられた、というケースもあります。住み込み就労の多さも二ヶ月の期限が迫ったためにやむをえず住み込みを選択せざるをえなかったという事情が反映しているものと考えられ、住み込み就労を果たした者のなかには既に離職して野宿生活に戻っている者もいることが私たちの独自調査で判明しています。路上脱却を目的とする事業が野宿者を再生産していることは由々しき事態であり、事業に対する信頼性を損ないかねないものです。本事業においては、「入所者を路上に戻さない」という大前提のもと、入所期間については延長し、その運用についても個別ケースに応じて柔軟に運用されるべきだと考えます。
次に居宅の確保に関して、行政機関として現状は保証人問題に関与できないと言うのであれば、公営住宅や特人厚宿泊所、グループホームなどを最大限活用すべきだと考えます。現状のプログラムにおいて民間のアパートに入居するためには、物件や保証人の確保(親族に限定されることも多い)に加えて、短期間の間に多額の資金を貯蓄しなければならず、入所者が越えるべきハードルが非常に高いものになっています。そのため、せっかく就労を続けていたにもかかわらず、この問題に直面して精神的に追い込まれ、先の見通しなきまま退所するケースも出てきています。退所後の居所については賃金や貯蓄額など個々人の事情に応じた多様な選択肢が用意されるべきであり、「就労を継続していさえすれば次のステップにつながる」という保障を事業主体としておこなうべきです。関係機関は、都区が所有する住宅に限らず能力開発事業団の雇用促進住宅などあらゆる公営住宅を調査・活用して、入所者に対する特別割り当てを実施すべきであり、今年度五ヶ所で予定されているグループホーム事業についても早期に実施し、拡大すべきです。
最後に本事業の運営体制に関しては、都、区、特人厚、委託業者の四者が関係していますが、事業主体の側の連携不足が顕著になっています。入所者の個別の相談に対しても、寮内相談員の経験不足に加えて、福祉事務所の担当の説明が寮内相談員と矛盾していたり、逆に寮に任せきりして福祉が関与しなかったり、と無責任な対応が目立ちます。また事業の位置づけや運営方法についても、寮を緊急宿泊施設として使う区があったり、期間延長についても対応が異なるなど、各区の考え方の相違が露呈しています。事業の推進に関して、月一回の運営協議会では機能不全に陥っていることはもはや明確であり、今後は常設の協議組織を設けた上で、そこでの協議については関連民間団体や入所者の出席・傍聴、議事録の公開など透明性を確保し、入所者の声を即座に反映させるためにも苦情申し立ての窓口を明確化すべきだと考えます。また、事業の有効性を検証するためにも、退所者の後追い調査をプライバシーに配慮しつつもおこなうことは不可欠であると考えますが、民間団体への調査委託など可能な方法を検討すべきです。
以上、本事業を硬直化させることなく、事業を活用する当事者にとって希望の持てるものにしていくために、ぜひ建設的な議論を交わしていきたいと考えます。
全都野宿労働者統一行動実行委員会(全都実)
090-3818-3450(笠井)
注・全都実は新宿連絡会を中心とする東京都内のホームレス団体が
東京都と交渉するために形成した実行委員会。
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