平素から「路上生活者対策」の推進にご尽力頂き感謝しております。5月の自立支援センター豊島寮の開設、そして先日の緊急一時保護センター設置の正式発表と、着実に「ホームレス白書」にもとづく今年度事業が前進している事は大変心強く思います。
まず冒頭、今後も自立支援センターの残り2箇所の新設、グループホーム事業の開始などの事業計画を今年の冬前までに早急に実施されんよう重ねて要望致します。
さて、緊急一時保護センターなど新事業がようやく実施されるという段に当たって、これら三事業(緊急一時保護センター、自立支援センター、グループホーム)の自立支援という観点からの位置付けを明確化させ、かつ、一貫したプログラムが求められていると私達は考えます。それぞれの事業は実施計画段階に当たって独立した位置付けがなされていると思いますが、もう一度その位置付けと関連を可能な限り鮮明にさせ、その事を対策に参加する当事者に理解してもらった上で事業運営をしない事には、事業それ自身の混乱を招きかねません。現行の自立支援センターにしても、福祉事務所担当者と施設内の生活相談員の指導内容が違うなどの事例もあり、たとえ施設が増加されたとしても事業内容の骨格が整理されていなければせっかくの多様な施策が硬直化したり混迷化てしまう危険性もあります。今後の「路上生活者対策」を行政機関と協力しながら共により効果のある(当事者に取って使い易く、また未来設計が描けるような)事業体系にして行く立場から、私達の基本的な見解、要望をそのための議論の素材として今回提出致します。秋口の本格的な事業実施の日までそのための建設的な議論を重ねて行きたいと存じます。
三事業を含めすべての「路上生活者対策」に共通する基本思想はいずれも路上脱却、そして自立の支援にある事は言うまでもありません。他方で路上生活者群は多様な人々の集合体であり、そのニーズ(支援が必要な度合い)も多様なものです。私達は路上支援の基本として「選択肢可能な多様な支援策」が必要であると訴えて来ました。もちろんその多様さは行政施策となる段に当たっては無限な多様さではなく、ある数本のラインとなり、個別は相談体制などで処理するという形になるでしょうが、いずれにせよ、その人が必要とされている支援の度合い(メニュー)を確定し、本人も合意する事が前提となります。
この観点から、三事業に限定して考えた場合、その支援の度合いに即して以下のような位置付けをし、また、自立支援センターへの入口も緊急一時保護センター一本に限定すべきではないと考えます。
緊急一時センター=緩い目的型、入所後の選択重視の支援施設
自立支援センター=就労自立の目的型支援施設
グループホーム =就労困難者の半福祉半就労型自立へ向けた長期支援施設
これら三事業の窓口は福祉事務所となっています。本来であれば、通常の福祉事務所業務とは相対的別個の窓口機関、指導機関が各区に必要だとは思いますが、いずれにせよ各福祉事務所においては自立支援事業に関する専属的なスタッフを要する必要があります。そして、自立を目指そうとする人々への処遇や指導に関して誰が責任を負うのかという明確な基準が設けられるべきです。現行の自立支援センターにおけるその点についての一定の混乱は、担当福祉事務所、特人厚、施設長の連携が不十分な点にあると言えます。プログラムについては専属の相談員が配置されてはいますが、肝心の処遇問題について、入所期間が過ぎたからと、路上に再び戻すような決定の仕方はいかがかと思います。最終的に入所決定した福祉事務所が責任を負うという観点が希薄なのは気にかかる点です。生活保護適用という最終手段がある事すら明確にせず、機械的に事業を分離させようとする姿勢では入所者に混迷を押し付けるのみです。連携は行政機関間の連携に止まらず、事業間の連携(センターから生活保護など)が確保されていない所では、一貫した自立支援プログラムにはなりませんし、将来にわたる不安を入所者に与えるだけです。自立支援という目的をしっかりと明確化させ、一つのプログラムでは不十分な人には他のプログラムを提示するなど、柔軟な対応をしていかなければ、「落ちこぼれ」という烙印を押された人々を大量に路上に戻す結果にしかなりません。自立支援事業などへの参加に躊躇している野宿者が考えている問題は「果たして旨く行くのか?」「最後までとことん支援してくれるのか?」という不安です。将来にわたる展望が見えなければ現状維持を選びます。一つのプログラムで失敗した場合はどうなるのか?という細部までも考え抜かれた自立支援事業体系とならない限り魅力ある事業にはなりません。路上に替わる施設が大量にできるのは私達も歓迎します。けれども問題はその施設の中でどのような将来性のある自立支援事業が体系立ってできるかという点です。この点を十分吟味した事業を推進されん事を私達は切に望みます。
その上で、各施設において以下のような事業内容が必要であると私達は考えます。
1.緊急一時保護センター
役所、制度に対する信頼回復機関、情報提供機関、生き方相談指導(アドバイス提供)
将来設計にあたっての各種行政サービス情報提供
社会保険事務所と連携した年金相談
「なんでも相談」体制の充実、センター利用者の外部からの(電話、来所)相談も受け
られる体制。
具体策の提示
医療相談体制の充実
就労支援ー住込み就労への交通費、支度金の支給
(短期の)技能講習など資格取得支援
免許更新や復帰、資格復帰のための手当て
社会復帰支援ー家族問題、借金問題などの相談体制と具体的解決案提供
自立支援センター、もしくは生活保護へのアセスメント基準は福祉事務所窓口と統一
させる
個別問題解決のための期間延長(センター待機のみならず、債務処理、身元確認など)
2.自立支援センター
5箇所設置後のリピーター要件緩和
リピーターの条件(たとえば支度金支給後失踪などの場合)の確定
就労、住宅相談員体制の充実と、他施策との連携強化。
生活相談員機能を一時保護センターに大部分を移転し、支援センターには就職相談員、
住宅相談員中心の相談体制に特化させる。
3.グループホーム
センターでの就職困難者もしくはパート・アルバイトなど収入の少ない人々を対象とし
た半福祉(半年金)半就労スタイルでの社会復帰支援事業
自立後の地域での生活相談のセンター的な役割(福祉事務所の居宅係的機能)機能(来
所での生活相談体制機能)
公的就労提供も含めた就職困難者への就労保障手当て
「ホームレス白書」によれば、これら三事業は自立へのステップアップとしての段階的な施設と位置付けられていますが、課題として今後かなりの定員数で設置される予定の緊急一時保護センターからのステップアップコースをどうニーズに即して準備できるかにかかっていると考えます。自立支援センターは短期間で一般就労が可能な人々が活用するコースとして確定し、そのための下準備(たとえば資格、免許の復帰や、資格の獲得、身元確認、債務の解決など)は可能な限り緊急一時保護センターで行なう必要があります。現在自立支援センター入所後に行なう、生活相談や身元確認などは、一時センターの枠内で行ない、自立支援センターでは入所後すぐに就職活動に専念できるようにすべきでしょう。すなわち緊急一時保護センターは自立のための「何でも相談」の役割を果たしていかなければ、その矛盾が自立支援センターの方に先延ばしになり、結果、就労率の悪化、回転率の悪化へとつながります。一時センターは待機施設という位置付けでは不十分であり、待機の間に将来の就労のために何ができるのかを考えた相談体制を十分に作っていかなければ、待機期間が長くなればなる程、逆に就労意欲を消してしまう施設になりかねません。そのため、専門的な相談員を集中的に配置する必要があると考えます。緊急一時保護センターは休息目的の人々も含めて多くの野宿者が利用できるよう間口を拡げ、入所後に自らが自らの将来設計を計画でき、選択できるような施設として、最終的なアセスメントはある程度の時間をかけ、自己決定権を尊重した形で行なうべきと考えます。
また、自立支援センターで就労に結びつかなかった人々や、パート・アルバイト的な収入の少ない仕事しか見つからなかった人々などは、共同生活の中で自立をめざそうとするグループホームでの支援という形をもつべきだろうと考えます。まずは、グループホームをそのように位置付け、各地に複数設置する方向性を確立して頂きたいと存じます。こちら自立の仕方は、能力に応じての仕事をやりながら、収入不足を福祉援護や年金支給などで補いながら地域社会の中での自立を目指すという方向性を持つべきでしょう。生活保護から(主要には病気をきっかけに)半福祉、半就労での地域社会の中での自立というコースは保護施設などで指導していますが、自立支援事業から半福祉、半就労での地域社会の中での自立というコースは今の所ありません。自立支援センターは成功するか失敗するかの二者択一でしかありませんし、福祉事務所も失敗した人々の生保での救済をやろうともしません。全面的な保護か、全面的な就労自立かしかの選択肢がない状態では、自ずから「出口」の地点でその他の人々は再び路上へと振り落とされてしまいます。とりわけ比較的高齢でフルタイムでの就労が困難な(かつ生活保護の対象にならないような)人々を取りこぼすようなら自立支援事業は本来の意味で成立していかないと思います。また、自力での就労確保が困難な人々に対しては限定的にも公的就労を提供するなど特別の手当てが必要かと考えます。自立支援関連施設のメンテナンスや周辺の清掃、食堂などでのアルバイト等、何らかの手段で雇用が確保される方策を考え出して行く必要があると考えます。
これらの点を吟味しながら、今後の三事業実施に関してはそれぞれの事業間、そして福祉事務所との連携を強く持ち、かつ、ステップアップの過程において無闇に路上に戻す事がないような、効果的なかつ実情に即した事業体系にして頂きたいと存じます。
また、今後の課題として越冬対策の一般施策への組み込みが課題となると考えますが、現行の二週間法外宿泊は緊急一時保護センターに引き継がれるでしょうが、「さくら寮」の位置付けをどうしていくのかが問題となります。周知の通り「さくら寮」は越冬法外施設といいながらも実際は傷病者の緊急保護施設(ドヤや保護施設の代用)的に利用されています。この機能は自立支援関連施設では代用できないものであり、存続、もしくは「さくら寮」的緊急保護施設の通年的な開設が計画されるべきだと考えます。自立支援センターを「さくら寮」的に使う福祉事務所が実際にあるように、保護施設の飽和状態は深刻であります。自立支援関連施設が増加したからと言って生活保護の対象者が減るという状態には当然ながら至っていません。保護施設を増設すると共にその飽和状態を緩和するためにも緊急的に23区で利用できる通年施設が必要だと考えますので検討の程をお願いしたく存じます。
更に、野宿者層の多くは建設産業から排出されています。今般の政治、経済状況は公共事業の削減や不良債権処理問題などの影響で建設会社の倒産やリストラが予想され、この産業で働く労働者の生活を直撃する事態となっています。野宿者を予防するという観点から日雇建設労働等の雇用確保策は急務の課題であると考えます。日雇吸収要綱等を活用し、また特別区とも協力しながら日雇建設労働者の雇用確保については今まで以上に尽力して頂くよう要望します。
最後に、現在国会においては「ホームレスの自立支援策等に関する臨時措置法案」が上程されており、秋の臨時国会において審議されようとしています。東京都としては従来からホームレス問題の国の責任と積極的な関与、そして法整備を求めていたと思います。私達も多少の主張の違いはあれど、国の責任と自立支援に関する新法を制定するよう求め続けてきました。今後の東京都における「路上生活者対策」の拡大、拡充のためにも国の関与は絶対的に必要であり、その度合いが対策の規模と内実を決定すると言っても過言ではないと考えます。東京都における「路上生活者対策」は全国的に見ても先駆的なものであり、実際自立支援センターの就労率も飛び抜けております。これらの努力と効果を国に認めさせて行くこと、そして地方自治体だけではなかなか推進しかねる労働施策や住宅施策を国に講じさせて行かせる事は東京にとっても、また他の都市にとっても大きな課題であると思います。私達も与党、野党問わずにこの法案の重要性緊急性を訴え、一刻も早く成立させるべく要請している所ですが、是非、東京都としても、法制定に向けた積極的な国への働きかけをして頂きたく存じます。
以上、ながながとなりましたが、今後の「路上生活者対策」推進のためのひとつの素材にして頂きたいと存じます。ご検討の上、施策に反映されれば幸いです。