新宿区生活福祉部長 殿                2002年7月1日

「緊急一時保護センター」など自立支援事業の改善
および新宿区独自の就労支援の強化に関する要望書


新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
緊急一時保護センター・大田寮の改善を求める寮生有志

連絡先・
090-3818-3450(笠井)

 「自立への新たなシステムの構築」(いわゆるステップアップ方式による自立支援、社会復帰システム=2001年3月「ホームレス白書」)の第一ステップ施設としての緊急一時保護センター・大田寮が開設され半年を過ぎました。
 貴区におかれましても、昨年12月以来、累計で113名(2002年5月末現在統計)の入所を実現し、アセスメント調査の結果、自立支援センターなど次なるステップへとそれぞれの処遇を決定するなど、区内に居住する路上生活者の自立支援に日々努力していることと存じます。
 私たちも貴区同様、路上生活者の自立を促す施策を前進させるため、自立支援センターの開設の要望や、事業内容をもっと実効あるものにするための改善要望などを提出し、各関係機関との話し合いを続けて来ました。緊急一時保護センター・大田寮についても当初のアセスメント調査の遅れなどを指摘し、寮生と協力しながら改善をさせてきた所であり、また寮生から希望の強い大田寮内における就労支援プログラムの導入についても現在、交渉を続けている所であります。
 私たちはまたこの間、区内の路上生活者の実態を把握するため独自の概数調査、アンケート調査(新宿区内の野宿者218名に実施)を実施してきました。路上生活者の方々が現行の自立支援事業に対してどの程度の理解を示し、またはどの程度期待をし、またどのような改善を求めているかを明らかにする事を目的としたものです(別紙参照)。
 私たちの調査では区内には東京都が実施している「概数調査」よりも多くの路上生活者が確認されています。新宿区内においてはテント生活者など「目に見える」路上生活者は僅か30%足らずで、その他のほとんどの方々が寝場所も定まらず新宿駅周辺などで一時の宿を借りる流動的生活形態を余儀なくされた人々です。すなわち、職を探しに新宿に来たものの、その方法すら分からず、また民間紹介の仕事が少ないため「アブレ(失職)」てしまった「経済難民」の方々が新宿区やその周辺部では圧倒的多数を占めます。私たちのアンケート調査でも80.4%の多数の人々が職を探し、また日銭を稼ぐため34.4%の人々が日雇、雑業仕事などに従事しており、いわゆる就労自立への意欲は失っていません。そして、59.4%もの人々が現行の自立支援事業を利用したいと願い、また65.9%もの人々が就労支援施策が充実される事を望んでいます。
 これらの数値は既に、緊急一時保護センター・大田寮への入寮抽選における抽選参加人数からも明らかです。抽選日には百名以上が並び平均倍率6.6倍という状態は自立支援事業に対する高い期待度の現われであります。

 自立支援事業は「どうにかやり直したい」と希求している路上生活者の自立への意欲を下支えして行く事に主力を置くべきである事は言うまでもないと考えますが、その場合においても常に路上生活者の自立への意欲を喚起し、自立の絵図(展望)を示し続けるのは自立を支援する側の最低限の義務であると思います。その意味において現行の自立支援システムはクライアントに対するガイダンス不足など不備が多く、また「常雇い就労を短期で見込まれる者」のみがその対象となっている節があります。緊急一時保護センターにおいていくら綿密なアセスメント調査をした所で、重度の病気の(もしくは障害を持つ)者の生活保護適用か自立支援センターしか施策的な選択肢がない現状においては、情報不足、準備不足の者、もしくは自立支援事業に適確でない者をただ自立支援センターに流し込むだけでしかなく、結果として自立支援センターにおける中途退所者、失敗者を増やすだけの成果しか生みだしていません(もちろん「常雇い就労を短期で見込まれる者」に対しての成果はあがっていると評価しています)。

 私たちはこの間行われて来た自立支援事業をもう一度見直し、地域特性や路上生活者の現状(ニーズ)に即したものへと変えて行くべきだろうと考えています。
 先の調査でも就労活動をしている人々の内39.1%の人々が建設日雇市場たる「高田馬場寄せ場」や「駅手配」で求職活動をし、22.9%の人々がスポーツ新聞を利用して求職活動をしているよう、住込み仕事へすぐにでも従事したい人々の層は多数を占めます。これらの人々は自立支援事業の施設に入所しても(また施設に入らずとも)すぐにでも就労をしたいと願っています。
 私たちは自立支援センターへの入所者は「常雇い就労を短期で見込まれる者」にある程度限定し、建設などの「住込み就労」を望んでいる人々へは緊急一時保護センター内での就労支援を整備し、かつ施設に入らなければ就労支援事業を受けられないという弊害を廃し、専門就労相談窓口を別途設けて様々な就労自立を支援していくべきだろうと考えています。
 とりわけ、仕事を探しに来たが、見つからずに路上生活を余儀なくされている人々がすぐに相談に訪れ、就労意欲を失わずに仕事探しが出来るようなシステム作りは、多くの失業者、半失業者が流れてくる新宿のような地においては必要不可欠な自立支援対策です。現行の自立支援事業の枠が少なく、かつ事業内容が偏っている中、結果的に就労意欲のある者を長い間放置し、就労意欲を失わせる、ないしは健康を害させ、生活保護を適用するという悪矛盾な構造を変えていかない事には、新宿における「ホームレス問題」は一向に解決への道へと踏み出せず、結果として今より多くの路上生活者が区立公園や道路などで定住せざるを得ない状況を産みだしてしまいます。

 自立支援センターでの常雇就労支援、緊急一時保護センターでの住込み就労支援、そして通いでの(専門窓口での)就労支援と選択肢可能な3つのタイプ別の就労支援が施されるならば、就労自立希望者に対してかなり効果的な施策になるものと思われます。

 私たちは貴区が新宿区内に起居する路上生活者のより一層の自立に寄与するため、自立支援事業関連施設への入所数を増やし、かつ大田寮内外において就労支援を強化するよう23区と早急に協議を進めると同時に、「ホームレス自立支援法案」の制定を見据えながら、法の施行と同時に貴区独自の就労支援施策を実施する位の決意を持つべきだろうと考えます。
 
 そのため下記の項目の速やかな検討と実施を求めます。
 


 一、緊急一時保護センター・大田寮の入所枠の拡大する事など

1.月に一回の大田寮抽選受付を二回以上に増やし、入所機会、入所数を増やす事
2.緊急一時保護センター・大田寮入所者に対する事前のガイダンスを徹底する事
3.緊急一時保護センター・大田寮入所者の内、自立支援センターへと処遇決定する場合「常雇い就労を短期で見込まれる者」を厳選する事
4.緊急一時保護センター・大田寮内に就労支援プログラムを導入するよう東京都及び23区と速やかに協議する事
5.「常雇い就労を短期で見込まれる者」の自立支援センターへのリピーターを認めるよう東京都及び23区と速やかに協議する事
6.既に職安を通して就職活動をしている者、もしくは既に就労をしている者など緊急一時保護センターを経ずとも「常雇い就労を短期で見込まれる者」は、直接自立支援センターへの入所を決定する事

 二、新宿区役所内もしくは新宿区内に路上生活者就労支援センター(相談所)を設ける事

1.福祉事務所内もしくは新宿区内に専門就職相談室を設置し、就職相談員を配置する事
2.新聞、求人誌、インターネットなどの求人情報閲覧室を設置し、全国的、地域的求人情報を閲覧できるようにする事
3.特定業種、ないしは地域雇用の求人開拓を行なう事
4.緊急地域雇用対策事業など公的就労の紹介窓口となる事
5.就職決定者への就労支度金を低利で融資する事
6.就職決定者の一時的な通勤施設として特人厚宿泊所ないしは自立支援センターを可能な限り紹介する事
7.求職活動のための無料電話を設置する事
8.求職活動のための履歴書を支給し、無料写真撮影機を設置する事
9.求職活動(面接など)のための交通費(往復)を支給もしくは貸付する事
10.求職活動のための衣類、靴を貸与する事                           
 

以上