平素から「路上生活者対策」の推進にご尽力頂き感謝しております。去年8月の「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(以下自立支援法)制定以降、東京においても、ホームレスの実態に関する調査、ホームレス緊急援護事業が行われ、また、本年3月、緊急一時保護センター板橋寮が開設されるなど、路上生活者の自立のための諸施策が東京都及び特別区においてより一層強化されている事を私たちは歓迎しております。
今後とも、より多くの路上生活者達が路上から脱却できかつ自立生活が送れるよう、自立支援法に基づく実施計画を早期に策定されん事を私たちは強く望んでいます。
1)冬季臨時宿泊事業、または厳冬期対応宿泊事業の継続について
私たちはこの冬、新宿地域、池袋地域において「仲間の命を守る」の一心で越年越冬の取り組みを行なって来ました。医療相談、各種相談、炊き出し、毛布配給、衣類配給、巡回パトロール、救急車添乗、福祉事務所への引率、保護申請の手助け、各種施策情報提供等を集中的に当事者と共に行い、寒空の中で路上生活をせざるを得ない人々、新たに路上生活に至り途方に暮れている人々の最低限度の生活を守る活動に専念して来ました。
私たちは、東京都、特別区が昨年度まで行なっていた冬季臨時宿泊事業廃止決定に納得出来ず、この方針に反し冬季臨時宿泊事業に代わる宿泊事業を新宿区内500名規模で行なって欲しいと新宿区に強く要望してまいりました。新宿区の尽力もあり「厳冬期対応」と云う形での宿泊事業が幸いにしてこの冬、行われてました。そして、私たちが想像していた通り、多くの路上生活者が1週間から3週間の短期宿泊でも、厳冬の厳しさから身体を休めるために利用してまいりました。
他方、こういう施策が辛うじて残った中でも、私たちが把握しているだけで、新宿地区で7名、池袋地区で2名の路上死が確認されております。
私たちは確信をしています。東京都の施設設置計画がどうであれ、また国の基本方針がどうあれ、冬場の厳しさから最低限身を守る短期宿泊事業は必要であると。
厳冬期対応宿泊事業の利用者で施設内で病気が発覚し生活保護に移行した者もおります。また、施設内で自立支援センター等東京都の自立支援事業について初めて知り、利用の希望を強く持った者もおります。非定住者が多い新宿地域において決して無駄な事業ではなかったとも私たちは確信をしております。
冬季臨時宿泊事業廃止方針の是非について、また、今期の厳冬期対応宿泊事業について、早期にその総括作業に入り、人道的な立場からもこれらの事業の継続を私たちは強く求めます。
2)自立支援センター渋谷寮、および自立生活訓練ホームの未実施部分の事業について
残念な事に昨年度に計画されていた自立支援センター渋谷寮、および自立生活訓練ホーム事業が未だ未実施となっております。とりわけ、渋谷寮は一昨年度からの計画事業であり早期の設置が求められています。自立支援事業の基幹施設の増員が図れない事により、緊急一時保護センターでの慢性的な待機待ち状態が続いており、今後、板橋寮が本格稼働し、かつ荒川等の計画事業が先行するならばこの状態がより一層拡大する懸念もあります。また、各区のそれぞれの地域事情を考慮したとしても、これ程まで遅延を繰り返しておれば今後のブロックごとの設置計画にも大きな支障を来す可能性もあります。
東京都にあっては、自立支援センター渋谷寮設置が遅れている事を深刻に受け止め、少なくとも今年度前半には具体的な見通しを経てる事、そしてそれが不可能であるならば、同一ブロックの他区に設置する代用計画案を作る事を要望致します。
また、自立生活訓練ホーム(グループホーム)事業が昨年度実施できなかった事も大きな問題であり、自立支援センター内の就職困難者問題、また所謂「半福祉半就労型自立」スタイルの確立問題に大きな陰を落としています。
私たちが言うまでもなく、短期間の集中的な就労支援システムである自立支援センターが故に、就労意欲があってもうまくいかない高齢者や就職困難者がある程度の層としており、かつ、各福祉事務所の退所後の取扱にバラつきがある以上、この問題への施策的な解決は必要であります。自立訓練ホームの設置を今年度中に必ず行なうよう要望致します。
3)自立支援センターのリピーター問題について
直近の緊急一時保護センター入所者統計を見ても、自立支援センターをかつて経験した者の入所が増えており、また路上での私たちの活動現場においても「もう一度入れないのか?」との相談が多く入って来ております。
機会の平等性の問題で言えば新宿地区のよう入所希望者が殺到する地域においては「一定期間は一度切り」とする方法もあるでしょうが、23区全体からすればこの1年数ヶ月緊急一時保護センター定員が満員になった事がないよう自立支援事業への入所者は減少傾向にあります。
また、利用者たる路上生活者にとってみても、緊急一時保護センターは半年を過ぎればもう一度入れるが、何故自立支援センターは一度切りなのか?との単純な疑問も多々聞かれます。
客観的に見ても、同じ路上生活者でありながら、一度自立支援センターを利用した者とそうでない者で自立支援に関しての支援内容が違うと云うのもおかしな話で、事実、一度利用して自立したものの、雇用主の都合で解雇され再び路上に戻り、1年以上仕事探しのため足を棒にしながら未だ安定した就職口が見つからないと云う方もおります。
私たちが何故リピーター問題に拘るのかと言えば、自立支援センターと云えども万能ではない(逆に言えば、万能な自立支援センターなどあり得ない)と考えているからです。たとえ自立支援センターから就労自立したとしても、中高年齢者の安定的な雇用は今のご時世においてほとんど望めません。多くの人々が路上と地域社会の狭間での「辛うじての自立」(の第一歩)を達しただけの話です。もちろん私たちは自立支援センターの効果を否定する訳ではなく、それだけの機能でも重要だと考えています。そして、だから故に、自立支援センターの間口を狭める必要はないのではないかとも考えます。自立は形式ではなく実態であります。実態に即し、必要とあれば何度でも受け入れ、支援を施すくらいの寛容さは、安定度が少ない路上においては事に必要な事だと考えます。
誰も悪意を持って「失敗」などしませんし、路上生活を未来永劫続けたいとも思っていません。自立支援事業の寛容さと熱意を示す意味においても、リピーター問題の早期解決、とりわけ、私たちはリピーターの無条件容認を求めます。
4)緊急一時保護センター、自立支援センター内の就労支援強化について
自立支援法でも謳われている通り、今後の自立支援事業の中でもとりわけ強化していかなければならない分野は就労支援分野である事は、おそらく共通認識に立っていると考えます。今回の法制定は福祉分野が先行して来た東京都の対策においても労働分野が今後どのように福祉分野と連携しながら総合的な自立支援策を策定して行けるのかの試金石でもあると考えます。
私たちも東京都及び特別区に対する現行路上生活者対策に対する改善要求の中でも常にこの点を強く申し入れて来ました。私たちはあえて(課題の多い)福祉分野における要望を強化するのではなく、労働分野、就労支援策とのバランスを勘案しながら提言をして来たつもりです。
そして、新年度から現行自立支援センターを強化すべく、厚生労働省による技能講習制度、トライアル雇用制度が自立支援センター等において実施する方向で検討されています。私たちはこの動きを強く歓迎しています。万能ではなくとも自立支援センター内での就労支援策は固定化される事なく常に強化されて行かなければならないと考えているからです。
私たちは、自立支援センター内において、技能講習制度、トライアル雇用制度を新年度すみやかに実施されん事を要望します。
また、緊急一時保護センター内での一部自立支援センター機能の前倒しは私たちがかねてから要望していた事であり、当事者のニーズが高いものです。緊急一時保護センター内に職業相談員を設置する、就労意欲喚起、就労準備のための様々なプログラムを導入する、建築住み込み就労など住民票がなくても就労できる職種に限り就労支援を施す等、早期に検討し可能なところから実施されんよう要望します。
そして、就労支援の強化について、東京都及び特別区においてはそのプログラム等を厚生労働省に任せるだけではなく、地域実情に応じたアイデア、施策案を提起すべきであろうと考えます。
東京に於ては、中高年齢者の安定雇用がなくとも不安定、不定期な雇用は地方と比較して多々あります。また手持ちの資金さえあればサービス業など独立開業が比較的安易に出来る環境にもあります。自立支援センターからの「常雇雇用オンリー」と云う幻想から脱却し、様々なパターンの就労自立プログラムが必要かと考えます。
現在行われている緊急地域雇用対策基金事業にしても、当面の生活を支え、次なる就労場所を確保していくステップとして発想し企画しなければ、所謂「ばらまき」雇用対策でしかありません。現行の基金事業はハローワーク等を通じて路上生活者も利用しておりますが、雇用期間が限られているため当面の生活維持は出来たとしても、先の不安は拭えません。実験的にでも自立支援事業の中に基金事業の枠を設け、自立へのステップアップの一つの手段として位置づけて行くのも一つの発想ではないかと考えます。
私たちは、大きな意味での自立支援事業としての就労支援のモデルケースを、地域や民間団体と協同しながら発案、実施する事を求めます。
5)自立支援センターからの住宅確保支援強化について
昨年度から自立支援センターでの都営住宅枠が確保され、住宅確保支援については大きな前進の兆しがあります。
言うまでもなく、東京の民間住宅市場で賃貸物件を確保、維持するには多額の出金が伴い、とりわけ低賃金不安定職の人々は常に路上生活化の危機状態の中にいます。その意味で、収入上、生活の不安定化が予想される就労者を無闇に民間賃貸物件に送り出すのは、一時的な「自立状態」を作り出しているだけで、決して本人のためにはなりません。比較的に安定した自立生活を送るためにワンクッションを置く必要がある自立支援センター内就労者は大勢おりますが、他の選択肢がない中でアパートを維持できなくなり路上復帰するか、運良く生活保護世帯となるかと云う現状も少なくはありません。
低所得者層への住宅施策が後退している以上、一般施策の中に押しやるのではなく、せっかくの自立支援機能を生かすためにも、都営住宅の確保枠の更なる拡大、特人厚宿泊所枠の設置等を求めます。
また、民間での低額保証人提供事業も臨界点に達しつつある現状を踏まえ、公的な保証人提供の仕組みを、民間での取り組みを参考にしながら協同で作りあげて行くべきだと考えます。
6)その他の事業について
自立支援法制定を受け、巡回相談センター等その他の新規事業が新年度から導入されると聞いておりますが、どのような位置づけ、及び体制で実施されるのかの全容が未だ明確になっておりません。巡回相談センターの発想で、最も重要なのは未だ行政施策を知らず路上で呻吟している人々に自立支援事業等の情報を行き渡らせる事ではないかと、私たちは考えています。周知の通り、東京においても、路上生活者は拡散を続けており、今や三多摩地域においても多くの路上生活者を抱える都市になりつつあります。私たちも正確な情報伝達こそ第一に必要だと考え、新宿、池袋地区において長年活動をしていますが、それでも基本情報すら知らない路上生活者に遭遇することは多々あります。新規参入者、非定住者、また拡散した都内の路上生活者にどうしたら自立支援事業についての情報を提供できるかが、今後の自立支援事業の在り方をめぐっても重要な観点であろうと考えます。その意味でも巡回相談センターは、地域に偏ることなく可能な限り全都に情報を巡らせる発信基地としての役割を期待しています。
7)生活保護の運用について
自立支援事業が相対的に推進されると、各福祉事務所においては本来業務部分を自立支援事業に押し付けると云う傾向があり、これらは私たちが指摘してきた通りですが、未だ退院後の宿泊施設として緊急一時保護センターを利用する、保護が必要な高齢者を自立支援センターに送ると云う運用がまかり通っています。
東京都にあってはこれら運用上の誤りについて強く指導するよう要望します。
また、SSSやFIS等明らかに営利の目的をもった第2種宿泊所がまん延化する中、ようやく宿泊所のガイドラインが策定された事は評価しますが、そもそも生活保護世帯を営利目的にする発想が生まれたのは、保護施設の不足を放置し続け、また各福祉事務所の保護運用が統一されておらず、かつ宿泊所保護世帯への就労支援などの施策がほとんど「指導」以上行われず、宿泊所へ「入れっぱなし」状態を放置して来たからであり、この事の反省抜きに問題になっている部分だけを是正すると云う発想はあまりにも安易すぎるのではないかと考えます。
路上生活者の自立のためには、自立支援事業と生活保護は両輪の如く回って行くことこそが重要である事は言うまでもありません。各区にあってはこのような悪質な保護施設を使う事なく、またやむを得ず宿泊所を利用する場合においても、短期の「つなぎ」の利用に留まり、就労支援等を率先して行なう事により居宅確保推進を行なうよう求めます。
また、各区にあっては、生活保護、法外援護、自立支援事業等の路上生活者に対する各種サービス情報を積極的に提供すると共に、窓口相談の夜間時間延長、出張相談等の工夫をすることにより、相談窓口の「敷居の高さ」を是正するよう求めます。
私たちは路上生活者の立場から、そして各種事業利用者の立場から、事業の効率的な運用が更に計れるよう提言をしています。私たちは路上生活者対策事業全般が、利用者が利用し易い事業、そして個々の事情に応じた様々な選択肢をもった事業となる事を願って止みません。東京都および特別区においては、ホームレス自立支援法が与野党一致で制定された事の重さを受け止め、かつ、長年に亘り支援活動を担って来た私たちの建設的な提言を受け止め、自立支援施策等をより強化されん事を最後に要望致します。
ご検討の上、施策に反映されれば幸いです。