平成15年9月29日

                         新宿区長 中山弘子様



       新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)


「新宿区環境土木部による、柏木公園、四季の道に起居する
路上生活状況の方への強制排除についての申し入れ」


拝啓 

 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は「路上生活者対策」の推進にご尽力いただき誠に感謝しております。

 さて、去る平成15年 9月に貴区環境土木部により、新宿区立「柏木公園」、新宿区新宿遊歩道公園「四季の道」に起居する路上生活状況の方に対し、公園適正化に伴う工事の名目で強制排除が行われました。両排除とも、そこに起居する路上生活状況の方に対して事前の通告が行われ、新宿連絡会からの指摘のもと生活福祉課との連携により、希望する方へは、従来の自立支援事業の運営方針に従った、緊急一時保護センター「大田寮」への優先的な入寮措置が行われました。結果、「柏木公園」では起居する約15名中 8名の方が、「四季の道」では起居する約3名中1名の方が希望されて「大田寮」へ入寮されました。

 上記の手続きは、平成14年8月7日に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(以下、自立支援法)」第11条「都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は、当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする。」に配慮されたように思われます。

 しかし、貴区より路上生活状況の方へ提供された「ホームレスの自立の支援等に関する施策」は上記の緊急一時保護センターへの優先的な入寮措置のみでした。上記の優先的な入寮措置を希望されなかった残りの約半数の方に対しては、他の施策の提供は行われておらず、彼らは現在も貴区内で起居する場所を移し路上生活状況を強いられています。

 また、緊急一時保護センターに入寮された方も、従来の自立支援事業の運営方針に従い、入寮中の就労活動は禁止されており、退寮後、本人の希望通り自立支援センターへの入寮が確約されているわけではありません。特に、失業状態のまま緊急一時保護センターを退寮して再び路上に戻られる方の場合、以前の路上生活状況で築いた居所、日用生活品、友人等の生活基盤を失っていることにより、以前よりも厳しい路上生活状況に置かれることが予想されます。上記のことは、入寮されなかった約半数の方が入寮を希望されない理由の一つとして挙げていることから、貴区より提供された「ホームレスの自立の支援等に関する施策」の現状が、質量ともに未だ地域の実情によって異なる路上生活状況の方のニーズに応えられるまでに成熟していないことが推測されます。

 「ホームレスの自立の支援等に関する施策」に関しては、自立支援法の第3条第1項各号に掲げられている目標事項に関する施策の策定が、第5条に国の責務として、第6条に地方公共団体の責務として明記されております。しかし、現在のところ国から「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(以下、基本方針)」が平成15年 7月31日に告示されたまでの状態であり、地方公共団体による具体的な実施計画は未だ立てられていません。

 上記の現状から鑑みると、今回、自立支援法に基づく施策や基本方針に即した実施計画が策定、実施されていない状況で行われた「柏木公園」、「四季の道」における第11条の運用に基づく強制排除は、第 1条に規定される、ホームレスの自立の支援、ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し、国等(地方公共団体含む)の果たすべき責務を果たしきれていない上での措置であり、自立支援法の目的に反して路上生活状況にある方の再生産の助長を招いたと考えられます。
 
 また、自立支援法の目的が、地域社会との軋轢を含むホームレスに関する問題の解決に資することを考慮すれば、今回の地域住民からの苦情を理由とした第11条の運用に基づく強制排除は路上生活状況にある方の一時的な追い立てという形のごく一面的な問題の解決に過ぎず、地域住民の路上生活状況にある方への理解による軋轢の解消、延いては、第7条に規定される国民のホームレスに関する問題の理解が得られるとは考えられません。それどころか、路上生活状況にある方が一員として構成する地域社会や行政に対して抱く不信感の助長が危惧されます。

 新宿連絡会は、ホームレスに関する問題の根本的且つ総合的な解決を望む見地から、貴区に対し、今回のような「ホームレスの自立の支援等に関する施策」の不十分な状態での、ごく一面的な問題解決の為の第11条の運用に抗議すると共に以下の要望をします。                      


                   記



1、自立支援法第11条は、強制排除を前提としたものではないことを確認し、今後一切濫用しないこと。

2、今回、優先的に緊急一時保護センターに入寮された方の処遇については、本人の希望を最優先すること。また、緊急一時保護センター、自立支援センター退寮後(ともに中途退寮含む)に再び路上生活状況に戻ることが危惧される場合には、本人が希望する限りにおいて積極的に生活保護等の適用を行うなど必要な施策を講じ、再び路上生活状況に戻さないようにすること。
3、今回、緊急一時保護センターへの優先的な入寮措置を希望されず、起居する場所を失った残りの約半数の方に対しては、民間団体等との連携のもと追跡調査等を行い、本人の自立の支援等に関する真のニーズを聞き取り、本人が希望する限りにおいて積極的に生活保護等の適用を行うなど必要な施策を講じ、再び路上生活状況に戻さないようにすること。

4、今回、地域住民からの苦情を理由に第11条の運用に基づく強制排除が行われたが、それだけではホームレスに関する問題や地域社会との軋轢は解決されない。国民への啓発活動等によるホームレスの人権の擁護は、自立支援法の第3条第1項三号に掲げられており、その施策の策定と実施は、第6条に地方公共団体の責務として明記されている。今後、貴区は、第7条に規定されている国民によるホームレスに関する問題についての理解を得るため、積極的に必要な施策を講じること。



つきましては上記の要望に対するご返答を2週間後までに文書でいただきたいと思います。ご多忙のなか誠に恐縮ですがどうぞよろしくお願いいたします。

                                  敬具