東京都福祉局連絡調整担当部長 殿
路上生活者対策事業運営協議会 殿

2004年4月16日

地域生活移行支援事業に関する要望書

新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
池袋野宿者連絡会
連絡先・
090-3818-3450(笠井)


 
平素から「路上生活者対策」の推進にご尽力頂き感謝しております。一昨年の「ホームレス自立支援法」制定以降、東京都、特別区におかれましても路上生活者自立支援事業、または生活保護事業の一層の推進に力を尽くして頂き深く感謝しております。
 今後とも、より多くの路上生活者達が路上から脱却できかつ自立生活が送れるよう、自立支援法に基づく諸施策の前進、拡大及び拡充を私たちは強く望んでいます。

 さて、東京都と特別区は先般「ホームレス地域生活移行支援事業」を発表されました。私たちは「ホームレス自立支援法」下における、まったく妥当な事業としてこの新事業を評価しております。私たちが十年来社会に訴え、また要望して来た事は、不幸にも路上にまで至った人々を「社会の一員」として認識し、社会的排除の対象として取り扱うのではなく、路上から脱せられるとりわけ「屋根」と「仕事」をセットにした自立支援策を制定し、路上からの脱却が可能な社会的環境を共に作ろうと云う事でした。そのため私たちは強制排除施策を批判し続けると同時に排除施策からの転換を強く求め、高齢者、病弱者への生活保護積極適用、そして稼働年齢層に対する自立支援事業を推進して参りました。その立場からも今回、都及び特別区が新たな住宅確保施策事業へと大きく踏み出そうとしている事に敬意を表すると共に強い期待感を持って事業の進展を見守っているところです。
 もちろんどの事業にも言える事ですが、新たな事業には期待感と同時に危惧すべき不安感も交じり合うものです。私たちが常に危惧する点は、事業内容が硬直化し、結果として当事者の意志や目的と遊離した事業に堕してしまう事です。よもやそのような事はないとは思いますが、この点については事業実施後も常に監視をし、また改善の働きかけをして行きたいと考えます。また、今回の新事業に対しては様々な疑問点が色々な立場の団体、個人からも寄せられていることと聞いております。逆に言うなればそれだけの期待感が込められた事業である事を自覚し、事業実施にあたっては大胆かつ慎重に実施して頂きたいと存じます。

 私たちは現行の自立支援事業施策及び生活保護関連施策についても例年改善の要望を提出しておりますが、今回はこの新たな「地域生活移行支援事業」が近々の課題と考え、この点のみ詳細な要望を差し上げたいと考えます。他の課題については改めまして要望書を提出致します。
 以下の各事項につきましてご検討を宜しくお願い致します。
 
 
「地域生活移行支援事業」についての要望事項

 「地域生活移行支援事業」は路上生活者の働く意欲、生活する意欲を引き出し、支え、地域社会への復帰を目指す「もう一つの自立支援事業」として都区路上生活者対策体系の中での位置づけを明確にして頂きたい。
 その上で23区の横並びを排し、実施可能な条件が整った区からの実施を早期に行って頂きたい。
 その実施に当たり、部分的、テスト的な実施ではなく、可能な限り対象地域を広げ、また、利用条件も厳しく制限的なものにするのではなく、利用希望者が等しくこの事業に参画できるような規模を確保して頂きたい。
 また、事業実施に当たり、事業内容を固定的なものにせず、たえず利用者や関係団体の意見を反映させ改善に努めて頂きたい。
 
 この事業の利用者は路上生活者であることは言うまでもありません。特別区や委託先民間団体との調整が先行して必要な事は理解するが、その調整に多くの時間を費やし、事業対象者をないがしろにする事はあってはならないと考えます。事業実施のプレス発表から根拠の乏しい情報に翻弄され続けて来たのも路上生活者であり、これ以上事業実施時期すらも分からない状態のままにしておくことは、利用予定者の著しい不信を招き今後の事業展開を考えても得策ではないと考えます。
 東京都にあっては、早急に事業実施時期と実施地域および事業概要等正確な情報を当事者に伝えるべきであり、その事を今回強く要望致します。
 
 この前提の上で、以下具体的な点を要望致します。
 
イ、相談および受付について

1、事業実施地域の事業対象者(特定の公園、その周辺で起居している者、及び、特定の公園、その周辺を主とした生活拠点にしている者)に対し、「説明会」を公園管理事務所もしくは、公園に隣接した施設を利用し実施する事。その席に実施主体である東京都、新宿区の福祉部職員、事業受託民間団体、公園を管理する管理事務所、「新規流入防止」を委託する警備会社社員を参加させる事。
 その席上で、相談体制と相談時期、また、事業利用者が残して行くテント、私物等の管理、またその者のアパート転居後の私物の廃棄等についての詳細なルールを確認しあう事。
 「説明会」は一地域において午前、午後、夜と、生活スタイルに応じて最低3回は開催する事。
 「説明会」参加者に対して、氏名、年齢、居住地域などを記した証明書のようなものを発行する事。
 
2、相談、受付は事業受託民間団体の恣意的な判断がないよう、公正公明に行う事。「説明会」に参加し、その場で正確な情報を聞き、その上で自分の判断で事業利用の希望を出した者は等しく相談に乗れるようする事。そのための相談をアウトリーチ(立ち話)だけで行うのではく、公園管理事務所もしくは、公園に隣接した施設などに臨時相談所を設け、時間をかけてゆっくりと相談できる環境を作る事。
 
3、相談においては、場合によっては健康相談や結核検診が受けられるよう福祉事務所と連携を取る事。
 また高齢や疾病など、明らかに生活保護が妥当と思われる者に対しては、福祉事務所へ責任をもってつなげる事。
 福祉事務所は紹介のあった者に対し適切な対応を取る事。相談において、多重債務問題、年金問題、家族問題などの生活上の諸問題が明らかになった場合、関係機関と連携し、その「解決」へのアドバイスと可能な限りの支援策を行う事。

4、相談の結果、事業利用が確定した者に対して「決定書」のようなものを発行する事。決定に際しての基準を明確にすると共に、事業受託団体のみの判断ではなく、東京都ないしは特別区の承認を得る形を取る事。

ロ、宿泊所(アパート選定期間)について

1、「事業利用決定者」に対して宿泊所の入所を義務づける事なく、公園等に居所が明確に確定しており継続した相談、健康診断、結核検診が可能な者に対しては、路上から直接のアパート入居を認める事。

2、宿泊所内または、宿泊所周辺で引き続き「個別相談」が行えるような場所を設置する事。

3、宿泊所の待機期間は、住宅確保の選定期間として位置づけ、むやみに長期間滞留させない事。また、本人の意思にそぐわない生活指導等を行わない事。

4、宿泊中、公園等に残したテントハウス等私物については公園管理事務所の責任において管理し、無断で私物等を廃棄しない事。アパート等への移行が決定した者には、最終的に残留する私物の諸権利を放棄する文章を公園管理事務所に提出させ、その処分を公園管理事務所が行う事。

5、アパートの選定が終了し居所が確定した者に対して「地域生活についての講習会」のようなものを集団で行い、アパート生活上最低限必要な情報(保健手続き、年金手続き、住民税手続きからゴミの出し方等まで生活全般に関する事柄)等を提供する事。

6、心身の疲れが溜まり、ある程度の期間の休養が必要と思われ、また本人もそれを望むのであれば、緊急一時保護センターへ一時的に移行ができるよう、事業間の連携を検討する事。

7、アパート及び都営住宅の場所は、本人の意思を尊重し、生活圏を壊さぬよう可能な限り当該地域の周辺を優先的に探す事。また、遠隔地を希望する者、家族での入居を希望する者、複数人での入居を希望する者、ペット同伴を希望する者に対しては、その希望に可能な限り沿うような選定をする事。

ハ、アパート、都営住宅の移行について

1、アパートの契約は、本人及び住宅確保支援団体だけでなく、アパートの所有者、または管理人が同席し、契約を行う事。

2、アパートへの転居に際して、最低限必要な什器備品についてはリサイクルセンターや民間団体などの協力を得て現物で支給する事。

3、アパート及び都営住宅へ移り住んだ者に対して、本人の要望がない限り、また特別なケース(大家との深刻なトラブル等)を除いてはむやみやたらな「巡回相談」を行わない事。居住後の各種生活支援は就労支援を除き一般生活者と基本的に同列に扱う事。

4、生活及び収入の向上が認められない限り、更新を続ける事。また、更新時の更新料等を徴収しない事。


ニ、就労支援について

1、生活上の基本は「就労による収入」である事を確認し、生活支援部分は事業入り口部門に集中し、アパート転居後は就労支援部門を重点的に配備する事。

2、臨時就労の枠を大きく確保すると同時に、多様な職種を準備し各人の能力や体力にあった雇用を用意する事。また、東京都及び特別区の臨時雇用、公的就労の枠の拡大を東京都や特別区発注の公共事業に可能な限り事業対象者を雇用する等を常に模索し、予算に反映させると同時に、厚生労働省に対し現行自立支援事業枠の「技能講習制度」「職業開拓推進員制度」「トライアル雇用制度」の拡大適用を求める事。

3、臨時雇用にあっては、どんなに短期間であろうとも労働保険、社会保険の加入を絶対条件にする事。

4,初任給までの金銭貸付制度を設ける、もしくは臨時雇用の雇用主に対し賃金の日払もしくは週払いが可能になるような雇用契約書を取り交わすよう指導する事。

5、臨時雇用契約終了後の再就職等について、アウトプレースメント(キャリアカウンセラー等専門職による教育訓練、相談、助言)が可能な専用の相談窓口を設け、公共職業紹介所、無料職業紹介所と連携した支援を実施する事。臨時雇用で働きながら夜間または休日に受けられる短期各種講習(清掃、介護、マンション管理、情報等)を再就職促進訓練として独自に実施する事。また、自力での就職困難者に対しては自立支援センターへの転居も含めて各事業間の移動が可能な余地を検討する事。

6、都区内の雇用主や業界団体、都区発注の公共事業受注業者等に路上生活者対策事業利用者の積極的な雇用を働きかけるなど啓発啓蒙活動を都区独自でも行う事。

7、自営雑業的就労(古本集め、書籍販売、空き缶集め等)への支援(集積場所、販売場所の確保や可能な範囲での協力等)を行う事。

以上