東京都福祉保健局 生活福祉部長
路上生活者対策事業運営協議会長 殿
新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
池袋野宿者連絡会
090-3818-3450(笠井)
平素から路上生活者対策の推進にご尽力頂き感謝しております。
今後とも、より多くの路上生活者達が路上から脱却できかつ自立した地域生活が送れるよう、「ホームレス自立支援法」に基づく諸施策の前進、拡大及び拡充を私たちは強く望んでいます。
さて、平成16年、17年の都内5大公園重点施策「地域生活移行支援事業」の受付とアパート入居が終了し、大きな成果を生み出している事を私たちは最大限評価しているものです。この事業は旧来の施設入所を前提とした生活保護システムおよび自立支援システムの限界を突破する画期的な事業である私たちは評価し続け、事業利用者に対して私たちもさまざまな支援を注いできました。
「ホームレスを地域の中にいきなり移行させるのは危険である」
この事業の開始当初に巻き起こった議論は集約すればこのような観点であったと記憶しております。福祉事務所や社会福祉施設を中心とする旧来の発想は「ホームレスは社会不適応者であるから、施設等で更正プログラムに参加させない限り社会復帰は不可能である」と云う根拠なき先入観で占められ、不幸にもそれに色濃く支配されてしまった路上生活者対策は、居宅での「地域生活」と云うこの対策の最終目標とすべき地点への推進力が限りなく失われて行ったとも云えます。
その結果が第2種を中心とする「中間施設」の膨張であり、生活保護費の中間搾取団体の跋扈であり、自立支援プログラムも収容施設のキャパシティに規定される数しか成果をあげられないと云う限界です。
しかし、それらの前提があたかもないかのように、「路上生活者の多くは必要最低限の支援さえあれば自力で生活を再建して行く」と云う事実を「地域生活移行支援事業」は実証してしまったのです。
路上に戻ってしまった例はわずか数例でしかなく、低家賃住宅制度と民生委に準ずる生活サポート、失業時や転職時に対応できる専用の職業紹介所の存在と云う最低限の仕組みの中で、多くの事業利用者は細々とした暮らしであろうとも、収入が生活保護基準以下であろうが、安心して生き生きと地域の中での生活を維持できています。
「地域生活移行支援事業」を「走りながら考える実験」と考えるならば、その実験はその事業を利用した一人ひとりの力によって支えられ、これまでにはない本当にすばらしい成果を生み出していると誰もが評価するでしょう。
さて、そこでお聞きしたい。皆様方はこの壮大なる実験だけで満足しているのでしょうか?この成果の地点から更なる大胆な発展を望まないのでしょうか?こうすれば良いと云う実例がありながらあえて困難な道に進むのでしょうか?と。
平成18年度以降の事業展開計画を見渡して、私たちは大変失望を感じております。
「新・地域生活移行支援事業」を23区全域で実施できるようにするのは良い事です。しかし、その場合狭い地域の5大公園規模以上の予算を積み立てなければ大規模施策として実施できないのは火を見るより明らかです。四百~五百戸と云われている今年度の少ない戸数でいかにして23区全域でこの事業を実施できるのでしょうか?少なく見積もっていると私たちが常々批判している概数調査の数値を見ても明らかではないでしょうか。生活保護制度や旧来の自立支援プログラムを最大限回転させたとしても、まったくもって足りない、と言わざる得ません。ブロック内の概数の約半数規模の実施計画(単年度で無理なら2-3年単位の計画)がなければ、とうてい23区全域対策とは呼べません。
予算上の課題があるとすれば低家賃住宅制度を公営住宅法に組み入れるような努力、都営、区営住宅の確保の努力、また家賃補助率の変更による戸数の最大限確保などの努力がなされるべきと思いますが、そのような努力をした形跡は認められません。
もちろん確定された予算を今すぐに上積みと云う訳にはいかないでしょうが、今から長期計画を組み立てる事、その計画の元今年度は少ない戸数を各ブロックに平等に分配する事、予算確保のための最大限の努力および19年度自立支援法見直しに対しての東京都の見解を早急にまとめ国との協議に入る事、および戸数確保に向けて法的な整理をすみやかに行う事を要望致します。
とりわけ今年度実施分に関しては各地においてすでに様々な噂が立っており期待をしている人々が多くいます。ブロック別の実施戸数、実施時期、実施方法、実施内容等これらの決定を秘密裏に行うのではなく、地域によって不平等感がないよう、また可能な限り情報を公開し、また前回のよう実施が確定したならば当該地域での「説明会」をくまなく実施するよう要望致します。
風説によれば今年度の確保した戸数をとある地域に重点的に配分するとの事ですが、特定の地域の利害を優先させる手法は23区対策としては好ましくなく、重点地域云々を言うならばブロック単位内で決められるべきであろうと考えます。
また、現に地域生活移行支援事業を利用している者のアパート契約の更新時期が近づいています。先の交渉では「契約終了の半年前までには基準を作成する」との事でしたが、その半年前を既に過ぎているにもかかわらずはっきりとした更新条件が示されていません。早急にその基準を明示すると共に更新にあたっては利用者を二度と路上に戻さぬよう、またアパートから中間施設などと云う施策の流れと逆行した考えを取り入れぬよう最大限の配慮を要望致します。
さて、既に新年度事業として巡回相談センターが設置され巡回相談事業なるものが開始されていますが、この巡回相談センターがストレートに「新・地域生活移行支援事業」にリンクしておらず、小さな体制にもかかわらず「あれもやれ、これもやれ」と事業内容を無理矢理「てんこ盛り」にした結果、開始早々から混乱している事に私たちは大きな危惧を感じています。巡回相談センターが一体何をメインに何を目的にして実施されるのかまったく不明ですが、東京都の実施計画による「路上に赴いての自立支援事業等の情報提供、助言」「生活状況やニーズ把握」がその目的とするのであれば、それこそ事業の窓口行政(福祉事務所)の仕事であり、それを何故各ブロックの緊急一時保護センターに設置するのか?各ブロックの緊急一時保護センター長がブロックセンター長として大きな責任を持たせるのか?これまた、まったくの不明と云うしかありません。しかも一ブロックに常勤一名、非常勤一名の外部委託職員体制となれば、本来の窓口行政の仕事を安易に民間に押し付けている構図でしかありません。
巡回相談センターはブロックごとの責任をしっかりと官が持ち、安易な外部委託をせずに「情報提供」なら「情報提供」の部門を持ち、「ニーズ把握」であれば「ニーズ把握」の部門をしっかりと持ち、また「新・地域生活移行支援事業」の生活サポートなら、その部門を持つべきだろうと考えます。そこまで責任体制を固めて初めて外部委託の議論が出る訳であり、最初から責任も何もかも民間になすり付ける方法は施策の混乱に拍車をかけるだけです。だいたい23区が寄り集まって金しか出さないでは事業がうまく行く筈がなく、人も出して初めて各区の責任と云うものが全うされるのであろうと考えます。
巡回相談センターについては「何もかもやる」機関としてではなく、目的と業務範囲を明確にし、それぞれの責任体制をはっきりさせ、一から作り直す事を要望致します。
更に、緊急一時保護センター、自立支援センターの旧来の自立支援システムに「新・地域生活移行支援事業」が加わる事により機能低下もしくは機能麻痺状態になる事を私たちは危惧しております。私たちは旧来の自立支援システムの大幅な改変をせず「地域生活移行支援事業」をそこに接木的に加える事には反対して来ましたが、現実はそのように進んでおり、今後大きな混乱を躍起させるでしょう。
たとえば自立支援センターの再入所条件を緩和させずこのまま「地域生活移行支援事業」を開始すれば自立支援センター利用経験者は再入所の道を閉ざされ、結果「地域生活移行支援事業」に進まざるを得ないが、その枠が少ない中ではそうそう利用できるものではなく、巡回相談で情報提供をもらい、期待を持って緊急一時保護センターなりを利用したとしても再び路上生活を送らざるを得ないと云う状況が生まれます。一方で期待を持たせる行政なり行政の下請け団体が宣伝しながら、実際は期待どころか絶望を押し付ける事業になるかも知れません。やたらめったに道具を揃えたとしても、それが有効に働かないのでは話しになりません。道具を動かすのは制度設計者と制度責任者の仕事でありますが、前述のような事が想定されるのは、特定の施設に入らなければ自立支援が出来ないと云う現状をどうやって打破するのかの発想がない証拠であります。自立支援センターと云う「箱もの」を固定化させ、しかも民間にほとんどの業務を丸投げしてしまったが故に安易に変更できないと云うジレンマは、まさに安易な民間委託を進めた自業自得の絵としか見えません。
このまま事業が転んでいけば、「特定の人」しか自立支援センターに行けないシステム。「特定の人」しか「地域生活移行支援事業」を利用できないシステム。「特定の人」しか生活保護を受給できないシステムに東京の路上生活者対策は成り下がる事でしょう。皮肉なことに路上生活を脱却させるためのこれまでの努力が結果として路上生活を容認し固定化させる事業にしかならなかったら、都民や区民はどう思うでしょうか?
旧来の「箱もの」だけに依存した自立支援システムを大幅に改編する必要はないのでしょうか?これまでのノウハウをいつまで「箱もの」の中に閉じ込めておく気なのでしょうか?
私たちは誰でも、いつでも、どこに居ようが何度でも利用できる自立支援システムの再構築(地域生活移行支援事業を含めた)を要望致します。
自立支援施設問題で云うならば、今年秋から冬にかけ最大規模を誇る緊急一時保護センター大田寮が閉鎖され、規模の小さな世田谷寮に引き継がれます。これにより約30%もの全体のキャパが減る結果を生み出そうとしています。緊急一時保護センターの入所方針が各区により大幅に違う為、現在は定員割れの状態ですが、今年の秋から冬に急にキャパが減る事によって厳冬期宿泊事業に影響が出る事は必至です。
これまでキャパの大きな緊急一時保護センターを云うなれば「シェルター併設型の自立第1ステップ施設」と実態に即してかなり広く位置づけて来られたと考えますが、これからは余裕のあまりない運用をせざるを得ない状況だろうと考えます。その場合、旧来から実施してきた厳冬期宿泊事業や身体を休めるだけのシェルター的な利用方法がどうなるのか?私たちは大変注目をしております。
昨今の気象異変の中で今冬のような異常気象や水害等もまた今後考えられます。命にかかわる緊急時に即座に対応できる施設(避難先)を確保していく事は路上生活者対策上必要不可欠な危機管理策であると考えます。少なくとも大田寮閉鎖後、旧来と同等枠での厳冬期宿泊枠を確保する事は当然であろうと考えます。この事への見通しを早急に立てる事を要望致します。
また、生活保護の現場においても自立支援プログラムの導入等、就労に結びつける努力がなされている事は評価しますが、こと路上生活者に対しては居宅を推進させる事なく相変わらず中間施設に留め置きされるケースが後を断ちません。また、その中間施設における処遇は過去問題になって来たにもかかわらず依然として中間搾取がまかり通っており、様々な不利益を当事者に押し付けています。膨大に膨れ上がった中間施設を大胆に整理し、善良な部分の中間施設を緊急性の高いケースでの短期シェルター的な利用方法に限定して利用し、施設入所が適当とされるケースを既存の更生施設にその他の者に関しては原則アパート等への居宅保護を推進する等の大方針を出すべき時期に来ているだろうと考えます。地域の中で生活をしていく事を政策的に推奨しなければ、結果、中間施設を転々とする人々の層を固定化させるだけです。
「受給し易く、自立し易い」制度であるべきの生活保護制度の足かせとなっているのは、こと路上問題に限定して云えば、安易な中間施設の利用であり、居宅推進の未徹底です。その事をしっかりと反省し、生活保護における居宅推進策を東京における大方針とする事を要望致します。
縷々申し上げて来ましたが、路上生活者対策が今以上に混乱化もしくは複雑化する事は避けるべきです。冒頭申し上げた通り「路上生活者の多くは必要最低限の支援さえあれば自力で生活を再建して行く」のです。突き詰めて行くならば、低家賃の住宅(一般並の収入が見込まれる者には一般アパートへの入居支援)、再就職のためのきめ細かい支援(そのための技能訓練や生活習慣取り戻しの臨時就労の提供)、不測の事態の時に相談と解決できる仕組み(医療、法律等の相談と解決機能)、この3つさえしっかりしていれば、自立支援法で規定する「自立の意思のある」人々のほとんどは「自力で生活を再建」して行けるのです。
この十数年の対策史上において、既に自明の事となった事さえ忘れ、施策を混乱化させる事には私たちは反対致します。
多くの路上生活者の人々は「いつ、新・地域生活移行支援事業が開始されるのか?」と期待をしております。どこの現場に行ってもこの話しで持ちきりです。「早くやってもらいたい」「俺もそんくらいの家賃なら生活できる」「早く元の生活に戻りたい」と、彼、彼女らは訴えています。
これほどまで期待を持たれた事業がかつてあったでしょうか?すなわち、それは施策の方向がまったく正しいと云う事です。ならば、その方向をしっかりと持ち、「解決の道」を共に歩むべきです。私たちはそう願っております。
私たちの大きな要求は、下記の通りです。真摯な回答を求めます。
1 都区は「新・地域生活移行支援事業」について、いつ頃、各区もしくはブロックでどのくらいの枠で、どのように実施するのかを早急に明らかにする事
2 都区は路上生活者対策にもっと責任を持ち全体を統括し、人もしっかりと配置し、戦略的な観点から事業を実施する事
3 路上生活者対策、生活保護からする居住支援の在り方、居宅を中心にした支援の在り方について、議論を深め、自立支援、生活保護を問わず都市貧民の低家賃住宅による「地域生活」制度を大きな柱に据え発展させる事
4 旧来の手法に固執する事なく大胆かつ効率的な施策体系にしていく事
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