平素から路上生活者対策の推進にご尽力頂き感謝しております。
今後とも、より多くの路上生活者達が路上から脱却でき、かつ自立した生活が送れるよう、「ホームレス自立支援法」に基づく諸施策の前進、拡大及び拡充を私たちは強く望んでいます。
さて、本年は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」及び「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し検討の年であり、既に1月、東京都を始め全国規模での「ホームレスの実態に関する全国調査」が実施され、4月6日には厚生労働省社会・援護局地域福祉課より「ホームレスの実態に関する全国調査報告書」が公表されたところであります。
平成15年7月に告示された「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」と、それに基づき全国規模で実施され始めた自立支援諸施策については、その評価と点検作業が既に全国の民間支援団体を中心に独自調査も含め実施され、現在議論がされているところであり、本年6月、新たに発足されるべく現在準備会が重ねられている「ホームレス支援全国ネットワーク」に私たちも参画し、建設的提言に向けて努力を続けているところであります。
東京都におかれましても、今般のホームレス数調査で大阪に次ぐ四千名規模の路上生活者を未だ自立させ得ていない現状を深刻に捉え、国の見直し作業に対し積極的な関与を果たして頂ければ、私たちも大きな力と感じる事でしょう。
他方において、都区検討会設置以来13年目ともなる都独自の「路上生活者自立支援システム」がこの間、どのように有効に働いたのか?そして実効性はどの程度あったのか?積み残した課題は何なのか?の点検作業も既に実施しているとは思いますが、その議論がなかなか私たちの耳に届いていないのも現状であります。個別施策で云えば、平成16年度から実施された「ホームレス地域生活移行支援事業」は何故、施策上の発展を見いだせぬまま今年度で終了となるのか?国事業でもある「ホームレス就業支援事業」が何故、本来の自立支援システムに組み込まれていないのか?旧来からの都区の合意であった筈の緊急一時保護センター5ヶ所、自立支援センター5ヶ所の設置がようやく整ったと云うのに、何故、急に施設数縮小の議論が舞い上がるのか?
私たちにとってはこれらの議論や決定が理にかなっているものであれば納得も行くでしょうが、おうおうにして、首を傾げるような点が数多く見受けられます。
施策の議論や決定に関しては、私たち民間支援団体等の議論や提案も是非とも取り入れ、より建設的でオープンな議論を続けてもらいたいと考えます。多くの路上生活者の路上脱却の大きな鍵を握る施策である以上、より多くの者が納得し、参画できる事業にさせていくためにも、この点は重要であると私たちは考えています。
本年の要望書は、今般の全国調査、なかんずく東京23区調査を受け、民間支援団体が考える諸施策の方向性をまとめました。この要望書をベースに、より実効性ある施策が改編される事を私たちは強く望みます。
まず、全国調査においてのホームレス数は、東京においては、本年の調査数が4,690名と平成15年調査から1,671名減っております。路上生活者の数が単純に減っている事は私たちにとっても、また社会にとっても喜ばしい事ではありますが、他方でこの減少の要因は何かと云う事も分析しなければならないと考えます。
定住型の路上生活者を中心に調査が進められている事を前提に考えたとしても、生活の形態は平成15年調査では公園が57.2%、河川敷が27.4%なのに比較し、今回調査では公園が32.2%、河川敷が40.1%と逆転をしており、ここからも、数値変動の大きな要因として公園テント型の路上生活者が、主に平成16年度から開始された「地域生活移行支援事業」により路上脱却したと云う事実が見受けられます。これは1,190名が平成16年8月~平成18年3月までの間にアパート生活に移行した事実からも有る程度の裏付けが取れると考えられます。もちろん他の施策の影響、とりわけこれまで3,600名規模の就労自立実績を誇る自立支援センター機能や、生活保護適用等の施策はどのように反映されているのかと云えば、数値上見え難い部分、もしくは新規流入などで相殺されやすい部分での反映としてあったと云うべきでしょう。
つまりは、見える数値を劇的に減少させるには、見える部分を対象とした重点的な施策が必要であり、それをこの数年力をかけ実施したからこそ、見える部分での数値は減少した訳です。見える数値は統計上の絶対値に近く、その部分を対象とした力学がなければ、絶対値として残り続ける数字であると云う、ある意味単純な話しであります。
しかし、少なくともかつてのよう、施策を打ってもその成果以上に新規流入が上回ると云う現状にはなっていないのは数値上、事実でありましょう。「ネットカフェ難民」等、今日「格差社会」の注目になっている「ワーキングプア」問題は潜在的なホームレスとは云いながらも、路上生活に至る前の段階に辛うじて留まっており、旧来の純粋な路上生活者は、相対的に今の現状に固定化しつつあるとの認識が必要かと思われます。
また、今回の調査の「生活実態部分」において特筆すべきは、前回調査より実態は決して良化してはいない、むしろ悪い傾向が現われているのではないかと云う点です。
平均年齢は58.9歳と、全国平均や都の前回調査より上がっています。若年層はカウントされておらず、34歳以下はわずか全体の0.6%でしかありません。
生活形態も、常設テント等は50.2%で、残りは不安定な生活基盤、また、路上生活期間も、1年未満が15年調査では28.7%が今回調査では16.2%、5年未満でも、15年調査が79.1%だったのが、今回調査では54.2%と、野宿の長期化、固定化傾向が現われています。
他方、仕事をしている率は前回調査より上がったものの、その収入は「1~3万円未満」が前回調査で30.7%、今回調査で37.7%と、収入はほとんど上がってはいません。
健康状態は相変わらず具合が悪い者が半数近くおり、しかも、その内、治療を受けていない者の率が前回調査で67.7%から69.5%に増え、福祉制度の利用状況では、巡回相談員に会った事がない者が53%もおり、緊急一時保護センターを知らない者が23.6%、知ってはいるが利用したことがない者が56.4%もおり、同じく自立支援センターを知らない者が32.6%、知ってはいるが利用したことがない者が57.6%もおり、更に自立支援センターを利用したことがあり、再路上に至ったものが、9.4%おり、また、今後自立支援センターを利用したいと思わない者が77.7%も存在しています。これは、自立支援プログラムに対する、情報提供がまったく一面的でしかない数値として現われていると考えられます。
そして、最後に自立に向けた今後の展望も、「きちんと就職して働きたい」が前回調査では45.5%であったのに、今回調査は34.5%と10%近くも下落、他方で「今のままでいい」が前回調査15.8%が、今回調査では25.9%と、出口の見えない不安を抱えたままの路上生活者を逆に増やしています。
このように、ここ数年の数値の減少が、単に手放しでは喜べない現状を、今回の実態調査は私たちに示してくれました。
つまりは、公園型の路上生活者は重点的な施策の影響で減った。他方で残された公園型や河川敷の固定層の路上生活者、そしてなかなか見えにくい駅ターミナル等を拠点に暮らしている生活基盤が不安定な路上生活者の現状は、施策がこれだけ増えたにも係らず、半数近くは具合が悪く、しかも、ほとんどが病院にも行けず、また、半数近くが巡回相談にも巡りあえず、福祉制度や自立支援プログラムについて正確な情報すら得る事が出来ずに、施策を敬遠しがちであり、それでも比較的健康な者は自力で現金収入は得るが、月3万程度のかつがつの暮し。そして希望を失いかけ、今のままで良しとする層が増え続けている。
このような状態である事を今回の調査はかなり明確に示していると思います。
何か前回よりも良い兆しが見えては来ないかと、調査結果表をめくってみても、それを見つけるのが難しいぐらいであります。
次にこの調査を受け、東京都と特別区はどのような施策の変更を企画するのか?それとも現状維持の施策を続け、国の基本方針変更を待つだけなのでしょうか?
私たちは国の施策に先行し、走りながら続けて来た東京都の施策姿勢を常に評価して来ましたし、これからも国に先駆け施策の変更を大胆に企画し、早期に実施するよう期待をしております。そして、「ホームレス自立支援法」の残り5年間の間で、今回以上の成果を実現するため大規模な施策の実施を要望したいと存じます。
施策の見直し、もしくは変更に当たって、まず考えなければならないのは、旧来の自立支援プログラムの、まっすぐに常雇い就労と自立を目指す直線型の支援策を維持しながら、それとは別のらせん形のルートをこのプログラムの中にどれだけ増やせるのかのではないかと思います。
本年の実態調査の今後望む生活の中でも、「きちんと就職して働きたい」の比率は低くなってるとは云え、「アルミ缶回収など都市雑業的な仕事」「行政から支援を受けながらの軽い仕事」を合せると、全体の56.8%が、何らかの仕事に就きながらの自立を望んでいることは明白です。意欲がある内に、その意欲に沿った施策を打つのは当然と云えば当然であり、他方、自立支援プログラムを知りながらも利用したくないと考える人々に、より魅力のある、将来設計が描けるようなプログラムの改変を行うべきでしょう。そして、「何らかの仕事をして自立を果たしたい」と願う者に即したプログラムに変えて行く必要があるでしょう。そう考える時、旧来の自立支援プログラムに魅力がないのは、とりわけ高齢や疾病をかかえている者が常雇い仕事に就き、自立すると云う、あまりにも現実的なイメージが湧かない施策内容であるからに他ならないでしょう。しかも、これまでは「ひとつの型にいかに流し込むのか」と云うプログラム設定をあまりにもしすぎた事により、個々の多様性に対応できず、結果就労自立率50%前後でよしとする雰囲気が固定化され続けてきました。たとえば、今路上で都市雑業の一つでもあるビッグイシューを売りながら路上生活を続けている者が、その仕事を続けながら収入増を図る、そしてアパート等に転居すると云うプログラムは存在していません。今就いている仕事を全て一端止め、その上で施設入所を一定の期間経なければ就職活動も出来ないと云う、不自由なプログラムとなっております。
就労支援を施設入所者に限定しないと云う意味で「ホームレス就業支援事業」が東京においても実施されている筈ですが、その能力を有効に活用できていないのは、あまりにも今のプログラムが硬直化し過ぎているからなのではないでしょうか。
私たちは、旧来の自立支援プログラムを施設型と通所型のよう多様化する事をここ数年要望し続けておりますが、その形態のみではなく、施設なら施設のプログラムがより現実的に多様化するよう、また、通所型なら通所のプログラムが同じく現実的に多様化するような企画の発想が必要なのではないかと考えます。
そして、その前提に立つと次に問題となるのは、その施策の「窓口」の問題です。「地域生活移行支援事業」の経験からしても、魅力のある事業には、それを知り、理解した者は率先して参画して来ます。そして、その魅力は単なる「エサ」ではなく、事業参画のメリット、デミリットを理解した上で、現在の生活を向上させようとする個々の生活力に根ざしたものでなければなりません。そのため都区は「地域生活移行支援事業」実施の際に「説明会」を開催し、尚且つ相談員を重点配備し、細かな事業内容にいたるまで話し合える関係に至ったのではなかったでしょうか。それを考える時、現在の「巡回相談事業」は、単なる声かけや安否確認に終っており、正確な情報伝達すら計画的になされているとは思えません。今回の目に見える者への調査ですら巡回相談員に「会ったことがある」ものがわずか47%、半数足らずなのは、いかにこの事業が定着していないかを示す数値です。
私たちは民間の立場で路上のネットワークを巡回相談と同じくアウトリーチと云う手法で先駆的に新宿の地で作り上げてきました。1年目でその存在は多くの路上生活者に知られ、新宿の地の福祉利用率が大きく上がったのは周知の事実です。云うなれば、アウトリーチは路上生活者支援の基本中の基本です。もちろん同じ事をやれとは云いませんが、ボランティア数名がいれば出来る事すら、これほど予算と人員をかけても出来ないのはいかなることか?何が問題なのかをしっかりと把握する必要があります。
そして、巡回相談を生かすためにも、新宿区が独自で実施しているようなワンストップサービス、拠点相談所のような機能が必要なのではないでしょうか。今回調査でも生活保護制度を利用したことがない者が65.8%、今後相談に行く意思があるかの内、ないが62%と、福祉事務所窓口の敷居の高さは相変わらずです。現在、「地域生活移行支援事業」を除けば、その相談、申込窓口はすべて福祉事務所に一本化されている現状からすれば、いかにプログラムを魅力的にし、正確な情報をまんべんなく提供したとしても、尚且つ「行きたくない」と云う者が多数現われたとしても不思議はありません。路上生活者と福祉事務所窓口との関係は必ずしも良好ではないと云う現実から出発し、その間を取り持つ存在が必要なのではと考えます。
自立支援プログラム以外でも、体調が悪ければ、福祉事務所に行き病院を紹介してもらうと云うプロセスすら知らなければ、そして、知っていても誰か背中を押してくれる存在がいなければ、我慢に我慢を重ね今以上の状態の悪化を招く恐れもあります。
次に考えなければならないのは、シェルター機能の存在です。旧来の自立支援プログラムにおいては、シェルターは自立支援の第一ステップ的な位置を占めていますが、その条件や位置づけを更に外して、誰でも一定期間何度でも入れるシェルター、そして、本当に社会復帰への動機付けが済んだ段階で、その先に進む事ができるシェルターが必要なのではないでしょうか。
今回の調査でも「食べ物が十分にないので辛い」「寝る場所を探すのにとても困っている」「寒さをしのげず辛い」「入浴、洗濯などができなくて、清潔に保つことができず困る」など現実的な訴えが多く出てきています。多少の働きがあったとしても炊き出し等に並ばざるを得ない現実。毛布を配るも、その保管場所さえ少なく、すぐに無くし、ガタガタと震えながら夜を明かす現実、シャワーサービスがあったとしても、利用時間の問題もあり、より多くの人々に提供できない現実を、私たちも日常的な活動の中で見てきました。民間の応急援護が盛んな新宿の地でさえこのような状況であり、他の地域は尚劣悪な状況が続いています。テント生活等定住型の路上生活者は先に指摘したよう減り続けています。他方で、駅ターミナル等で路上生活を余儀なくされる者は、これからも一定の数で推移するでしょう。さすれば、困窮の度合いに応じた、即応できる施策がなければ、この状態は固定化されたままです。
このシェルターは300名規模の旧大田寮クラスの施設が一ヶ所あれば十分であると私たちは考えます。このシェルターを順番に使い、当座の困窮を緩和させ、ゆくゆくは社会性を取り戻し、本来の自立支援プログラムに参加できるようにしていく。このような施設があれば、施策内容に関しての正確な情報提供は余すことなく可能であり、巡回相談事業もまた相乗効果で機能し始める事でしょう。施策とは双方の信頼であり、応急的な援護こそ、その最初の一歩になるのです。
最後に、「地域生活移行支援事業」をどのように発展させるかであります。今回の全国調査において、行政の意見で最も多いのが「居住関連」の事項でした。また、今後の生活拠点希望で一番多いのが「自らアパートを借りたい」と云う答えでした。私たちは「地域生活移行支援事業」の中の、その中心施策である低家賃住宅提供施策をどのような形で継続していくのかを、今こそ真剣に考える必要があると思います。もちろん、これは国、国土交通省の課題でもあり、同時に国に対しても、東京における家賃の高騰と、特殊な不動産システムが、低賃金とも相俟って大きな自立阻害要因になっている現実を訴え続けて行くつもりです。好景気とは云え、東京には食いぶちを稼ぐ程度の仕事はあるが家賃が高い。他方で地方は家賃が安いが仕事がない。この構造的な矛盾を、自立支援の側からどのように解決するのか?収入の低い勤労者への住宅政策でもある都営住宅の多くが家族型で設計され、かつその縮小が謳われている中では、敷金礼金等の補助から一歩進んで、貯蓄が一定程度貯まるまでの期間の家賃補助は最低限必要なのではないかと考えます。新生活はスタートダッシュがとりわけ重要なのであり、不慮の失業や、不慮の病気、身内の不幸等に耐えられるだけの貯蓄すらなければ、せっかく手に入れたアパートも手放さざるを得なくなります。
「地域生活移行支援事業」のおける借上げ型のアパートが維持できないのであれば、また公的な住宅政策が十分にとれないのであれば、低家賃住宅物件の「不動産屋」の位置を都区が持ち、情報提供等を集中的に行い、かつ、敷金礼金等の補助及び、一定の期間での家賃補助制度を創設するよう要望致します。
以上、縷々述べて来ましたが、簡易にまとめれば、今般の実態調査内容に即し、より実行ある自立支援施策に変更していくために、
(1)自立支援プログラムの多様化
(2)巡回相談事業の強化と拠点相談の実施
(3)シェルターの新設
(4)新たな低家賃住宅施策の創設
を、私たちは自立支援プログラムの見直し作業の中で是非とも議題にあげて頂きたく思っております。そして、これらの施策を早期に実施に移すことを要望致します。
巷で囁かれている既存施設の縮小方針も、全体計画の効果的な見直しと同時並行に行わない限り、単なる施策の後退を招くだけで、その話しだけが一人歩きしてしまいます。東京都は今後5年間、都内で路上生活を余儀なくされている4千もの人々の支援策をどのような目標と手法で実施するのか?その大きな方針がない小手先の改革では大きなしっぺ返しが来る事でしょう。必要のある施策は強化し、一定の機能を全うした施策は整理統合しながら、全体としてのグレードを実態に合わせてあげていかない限り、この問題の「解決」は遠のいてしまうだけです。
今般の調査結果を重く受け止め、残り5年へ向けたエンジンにどのように火をつけるのか?私たちは路上の立場から施策全般を見守り、そして協力すべきは協力し、提言すべきは提言を続け、この問題の「解決」への道筋を共につけてまいりたいと思います。