東京都福祉保健局 生活福祉部長 
路上生活者対策事業運営協議会長 殿

2008年4月25日

路上生活者対策に関する要望書


                  新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
                 池袋野宿者連絡会
                       連絡先・新宿区高田馬場2-6-10関ビル106号室
                              090-3818-3450(笠井)

  平素から路上生活者対策の推進にご尽力頂き感謝しております。
 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」の基本方針見直し年に当たり、今後とも一人でも多くの路上生活者が屋根と仕事のある生活に戻れるよう、自立のための諸施策の強力なる前進を続けて頂くよう私たちは強く望んでおります。

 さて、「ホームレス自立支援法」基本方針の改定に当たり、その基礎資料作りのため昨年初頭、または本年初頭に全国規模の路上生活者の概数調査が実施されてまいりました。その結果に触れますと国及び、東京都を初めとする地方自治体の努力もあり減少傾向にあるとの事で、大局的には大変喜ばしい限りです。私たちの活動の最終目的は、東京の各所において路頭に迷い、路上で生活をせざるを得ない状況を解消する事であり、その指標として東京都内において路上生活者概数が減り続けている事実は、相対的に路上生活者が抱える困難な現状はじょじょにではあるものの改善しつつあると認識をする事が出来ます。
 私たちが一貫して主張して来たよう、市民の理解を得、自立のための施策、また高齢、病弱者等一般就労が困難な者は生活保護制度につなげる施策を路上の人々のニーズに則して実施する事が、この問題の最善の解決方法である、との方法論はこの数年の施策の拡大と、概数の減少の中で実証されているのではなかろうかと存じます。かつて、都庁の真下で強制排除を頻繁に強行し、路上生活者のニーズとはほど遠い収容施策しかその代替案を持たなかった時期に比べれば数段の進歩であり、この事は私たちは大いに評価するものであります。

 とは、云え官民合わせたここ数年の大変な努力の継続を明確にする事なく、「効率化」を前提にした都庁主導の「路上生活者対策事業再構築」の議論は、私たちを大変不安にさせております。
 もちろん昨年8月に「路上生活者対策事業再構築検討会」が報告した趣旨の中には私たちの積年の要望も含まれており評価すべき点は多々あります。それがまさに文字通りに実施されるのであれば大いなる施策の前進となるでしょう。しかし、その前提となっている「経費削減の方策」は、私たちが急迫時に利用し続けて来た緊急一時保護センター施設等の定員の縮小(現在10ヶ所施設が将来的には5ヶ所となる計画)につながり、その入り口を狭め、自立の意思ありと行政が認めた一部の者しかこの事業を利用できないようになるのではなかろうかとの疑問も湧いて来ます。
 このような懸念が沸いてくるのも、私たちが昨年春に提出した「シェルターの新設」要望は何ら検討もされず、また、巡回相談機能の強化連携等、入り口問題の議論を飛ばし、議論の矛先をシステムそれ自体の効率に据えた果ての結論であると考えます。  

 私たちはまず「経費削減」ありきの自立支援事業改定計画を更に再構築して頂きたい。路上生活者対策に一定規模の予算が必要なのは周知の事実であります。とは云え地方自治体の財力は限られている。そして、だから故に国に対して私たちと一緒に法制化を要望していたのではないでしょうか。そしてその後、国の補助を加え東京においても施策上の大きな前進を見、先に指摘したよう東京の路上生活者概数も大幅に減少しました。この一部の成果だけで満足し、施策の終息を段階的に図ろうとする思惑など、まさかそのカケラもないとは思いますが、実験を重ねただけでそれを全体に波及させないとするならば、一貫性に欠けた施策との誹りは免れないでしょう。都民は、どこのターミナル駅、都市公園、そして河川敷に安易に見受けられる路上生活者の姿に満足をしているのでしょうか。また、その路上生活者達は、今の現状に満足しているのでしょうか。強力なる施策の実施の果てにも、約四千名もの人々は今も路上生活を余儀なくされ、その多くは「きっかけ」さえあれば諸施策に参加し、普通の暮らしを夢見ているのにです。
 今、この数年来の官民の努力を更に力を入れて継続するのか?残る約四千名の路上生活者達に今までと同様、満遍なく諸施策を提供し続けるのか?この前提が欠落したままの「効率化」の議論は、議論を誤った方向に向かわせる危険性があり、今まさにその危惧が各所で表されているのではないでしょうか?
 もちろん、私たちは「効率化」一般に異議を唱えている訳ではありません。一切の無駄を廃し、管理コストを削減し、受益者たる路上生活者に広くその施策が行き渡る事こそ重要です。しかし、現状は施策の縦割り化が進み、その連携すらも容易に取れずに右往左往している状況です。「効率化」を考えた場合、その点をこそ問題にすべきではなかろうかと考えます。
 5年間の期限限定付きの施設設置計画は、建設コストを考えたら大いなる無駄遣いなのではないのか?施設入所権限すら持たされず、ただ住民の苦情を元にうろついているだけの巡回相談の人件費は無駄ではないのか?福祉事務所の処遇方針と施設内のアセスメント方針が合致しない問題を整理する事すらしないのは二重の意味でどうなのか?ホームレスのために仕事を開拓すると云いながら、ごくごく一部の者にしか紹介できない仕組みはどうなのか?アフターフォローが必要な者と不必要な者が存在するのに、一律にどこまでもアフターフォローをかけようとする議論ばかりをするのはどうなのか?協議会だ、事業組合だと外郭団体をいくつも作っても一向に連携も取れず、ただ天下りや名誉職を優遇するばかりなのはどうなのか?
 施策の拡大は各所で利権が生まれ、また「膿」を発生させます。「効率化」すべきはこのように施策の内側にあるのに、何故その矛盾を解決する方向に向かわず、矛盾の矛先を当事者に押し付けようとするのか?問題はその部分にあると私たちは考えます。この間の自立支援事業も地域生活移行支援事業も決して「負の遺産」ではありません。これらを含め問題点をすぐさま解決できる調整能力さえあれば、もっと広く、もっと多くの路上生活者の利益に結びついたのではないでしょうか。  都においては、自身の調整能力不足を大いに恥じ、そして反省をしてもらいたく存じます。そして、誤った「効率化」ありきの議論ではなく、施策の拡大発展を前提とした議論の中で、縦割り施策を横断的な施策に改変する事によって無駄な部分は削り、管理コストを見直して行くと云う議論に立ち返るべきです。

 その上で、今の「施設」を中心とした自立支援事業の仕組みを大幅に改変し、「施設」をサービス窓口化し、また、それで不足するのであれば新規に駅ターミナル等集住地の近くに窓口機関を設け、より路上に近い視点から施策の入り口部分を再構築して行く必要があろうかと存じます。
 巡回相談機能が何故生きて来ないかと云えば、緊急時以外は、結局は敷居の高い福祉事務所に行けと云うしかないからです。そして、福祉事務所に行ったとしても、そこには「施設」しか用意されておらず、たとえ「施設」に入所したとしても、そこには決まり切った一本道の階段しか準備していないからです。
  例をあげるなら新宿区が独自で実施している「拠点相談窓口」と「自立支援ホーム」と云う生活保護でも自立支援事業でもない、隙間のニーズに対応するような手段を、これに限らず多様に有している事が、路上から地域への橋渡しの「窓口」として必要であり、その関連性の中で巡回相談が生きてくると云う仕組みにしなければほとんど意味がありません。
 今の再構築案では、たった数人の「優良」で「自立可能」と思われる路上生活者を探すためだけに5ブロックに巡回相談員を複数人配置すると云う、それこそ「宝探し」意外の何ものにもならないでしょう。
 自立支援センターを「宿泊所」付きの、地域に開かれた「就労支援センター」にすると云う構想は私たちは大いに賛成をします。しかし、それが今の施設で実現可能かと考えれば、所詮それは中途半端なものにしかならないことが目に見えています。地域との軋轢前提で作られた自立支援センターが、そう安易に「開放」されるとは考えられません。ならば、来年度に作られる予定の新型自立支援センター構想は、最初から「施設」ではなく「センター」として作るべきだと考えます。そして、その「センター」周辺に借り上げ型アパートを設置するなり、シェルターを設置するなりし、最低限住民票が置ける居住の場を設け、通所型の「センター」で相談に乗れるようすべきです。「屋根と仕事」の提供がセットになった「自立支援センター」の本来の機能は、路上生活者はもちろんのこと、宿泊所等で生活をしている生活保護世帯にも需要が多くあり、行政内の縦割りの枠をとっぱらえば、大きな社会資源へと発展してく可能性があります。無論、そこでは今までのよう常雇い就労のみと云う狭い自立方針を捨て、雑業だろうが何だろうが、何らかの仕事に就き、地域の中で暮らして行くと云う点に集中した支援方針を打ち立てるべきです。  私たちが想定する新たな自立支援センターのイメージはまさにこのような施策の事であります。このような施策がブロック内1ヶ所と云わず、必要とあれば小規模でも何ヶ所でも設置され、連携して行ければ、自立支援事業の本来の力は発揮されることでしょう。

 何故常雇い就労だけが「自立」なのか?と云う問い掛けを私たちは昨年の春の要望書にも記しました。しかしこの点の東京都からの反応はこの一年、何もありませんでした。国でさえ、雑業関連に注目し、そのための事業に予算を付け、また臨時軽易な仕事の開拓とさえ言っているのにです。再就職支援の基本は「とりあえずの仕事」からスタートされます。最初から大きな獲物を狙ったとしても、経験がなければ失敗の連続で、しまいには自信すら失ってしまうからです。こんな当たり前の基本すら、福祉の現場の人間は畑違いだからか、分からないのでしょうか。都の外郭団体たる「ホームレス就業支援協議会」はそのための臨時軽易な仕事の開拓を柱として国からの委託を受け実施しているものの、その配分は何故か、窓口を閉鎖され、終息されようとしている地域生活移行支援事業の利用者しか利用できないと云う仕組みになっています。今まではそれはそれで筋は通っていたのかも知れませんが、この事業亡き後、せっかく開拓した臨時軽易な仕事は誰に情報提供するのか?それこそ効率化の果てに「臨時就労」が予算措置されない中、民間の協力、開拓をと開始された事業であるのに、その果実すら路上に人々が受け取れないと云うのは本末転倒の域であり、早急に路上の人々にその窓口を開放するよう要望致します。まずは、路上のままでも良いから職場体験講習や、臨時、軽易な仕事をし、ある程度の収入を得てから、本格的な仕事を探すために自立支援システム(安定した就労を目指した資格取得や就労相談と紹介事業等)を利用すると云うスキームが何故作れないのか?まったくの疑問であります。この議論をするといつも労働行政の温度差云々と行政内の縦割りを根拠に、有耶無耶にされるのでありますが、福祉行政が労働行政施策を囲込んでいたい(既得権益を守りたい)だけなのではなかろうかとのうがった見方も生まれて来ます。再構築案作成の議論でどこまで労働行政サイドの意見を聴取したのか?実は福祉関係者だけの議論でなかったのか?この点からも再構築案の再構築を求めるものであります。

 いくら自立のための施策を検討しても、結局生活保護制度に頼るしかないのがこの間(とりわけ、地域生活移行支援事業)の総括ではないかとの声もあるでしょうが、その議論は自立支援策と生活保護制度を対立的にとらえているだけの議論です。福祉施策と就労支援策(自立支援策)は歴史的にも両輪であり、両輪であるからこそ、互いの施策が生き合うと云う関係性にあります。仕事をしながら福祉制度を受給できないのか?福祉制度を受給したから仕事が出来ないのか?現実には否であります。分離した議論をするから対立的になるだけで、自らの努力で、または様々な支援策を利用し、仕事をし、何らかの収入を得る。それでも生活が維持できなかった場合に限って生活保護が生活の下支えをする。これは、あえて言うまでもない位に常識的な考え方です。結果的にどちらが多いかなんてことは比較する必要はないし、また比較も出来ない代物です。福祉事務所に頼らず、ハローワークの求人紹介のみで自立した人々は世の中には数えきれない程居り、そちらの方は統計にも出ないからです。
 こう云う分析ばかりをしているから、生活保護制度に頼るしかないのだから最初から生活保護制度で対応すべきと云う極端な意見が蔓延っている事を自覚すべきあります。それはまさに路上生活者対策の歴史を法制化も含め最初からやり直す事を意味し、この間の努力も何もかもをひっくり返すような主張であり私たちもとうてい受け入れる訳にはいきません。もちろん、路上生活者の長期化、高齢化の中で一般の労働市場に対応できない就労困難層が相対的に増え続けているのは事実であり、その結果が地域生活移行支援事業の顛末にも反映しているのは事実であります。その意味で路上生活者に対する福祉行政のあり方は問われ続けるべきであり、私たちも適切な対応を要求し続けます。そして、だからこそ自立支援策は今こそ大幅に拡大、発展させなければ、路上生活者対策全体が「負の遺産」に化してしまうと云う事です。

  地域生活移行支援事業の継続また発展の件についても、昨年の要望書には提起しておりますが、こちらは検討するどころか、全く逆の結論、19年度で新規受付の終了をいつの間にか、何の相談もなく決定されました。既存の事業の新規受付が終了し、違う別のものに発展すると云うのなら話は別ですが、その展望もあるのだかないのだか良く分からない玉虫色の結論に私たちは大変失望をしております。廃止するのであれば何が問題であったのかを明らかにする必要はないのでしょうか?かつて、どのような事業でもそのような説明は私たちにはしております。多くの支援団体が反対する中、唯一と言っていいようこの事業に賛意を称し、事業に積極的に協力して来た私たちにさえ説明もせずに、突如の中止を決定した背景には何があるのか?この点を明らかにして頂きたいと存じます。
 私たちは、地域生活移行支援事業の発展のために、国への支援要請及び低家賃住宅制度の創設等を提案をして来ました。その点についてどのような努力をし、何が叶わなかったのか?それとも何の努力もせずに、お得意の「効率化」でバッサリしてしまったのか?その説明如何では、私たちの今後の東京都に対する対応も変わって来るので明確にして頂きたいのです。
 どのような事情があったにせよ、この廃止の決定は覆らないと思いますが、ならば、せっかく公費を使いかき集めた民間の低廉なアパートは今後、利用者の利用期限終了と同時に、再び民間市場に戻してしまうのか?これでは社会資源の無駄使いとの批判はかわせるのでしょうか?そうでないと言うならば、東京都の言う「効率化」とは何を指しているのか明確にして頂きたくも存じます。

 私たちは為にする議論はしたくはありません。また、巷で流行っている、不当に役所を陥れるための議論もしかりです。
 私たちの最終目標は、先に明記したよう、東京の各所において路頭に迷い、路上で生活をせざるを得ない状況を解消する事であります。そのための努力は誰に言われずとも、黙々と実行致す所存であります。そして、同じ目的を持った者であれば、民間であろうが、行政であろうが共に協力して行くのが、私たちのポリシーであります。しかしながら、行政は、首長が時たま変わり、また担当部署も再編となったり、異動となったりと、その方針、目的が変わりやすい機関であります。そのため私たちも時には辛辣な言葉を吐く事がありますが、それも、私たちの、否、私たちのみならず、社会の多くの人々が願っている最終目標を何としても実現したいからであります。そして、私たちの活動には多くの路上の仲間たちが期待し、支持をしてくれています。その期待に応える事こそ、私たちの、そして、社会の責務であると私たちは確信しております。

 より良き対策の前進のため、今回の要望書を真剣に受け止め、検討されん事を最後にお願い致します。

 <要望事項>  

  1. 自立支援事業の再構築及び先行実施に当たり、「効率化」ありきの姿勢を改め、路上生活者の多様 な自立を支援するため必要な事業改変を実施する事。
  2. 自立支援施設見直しに当たり、宿泊機関と相談機関を分離し、基本通所型の相談機能を持つ「セン ター」に改変する事。
  3. その設置に当たり、ブロック1ヶ所に拘らず、駅ターミナル等集住地において必要があれば、小規 模の「センター」もしくは「センター出張所」を設ける事
  4.  宿泊機関については、民間借り上げアパート等を活用すると同時に、誰でも入退所自由な大規模 シェルターを都内に一ヶ所設ける事
  5. 自立支援について、常雇い就労に拘ることなく、都市雑業等、何らかの仕事に就き収入を得ながら 地域生活に戻っていける、段階的な施策を設計する事
  6. 巡回相談員に対し、現場での権限(施設入所権等)を与える事
  7. ホームレス就業支援協議会の窓口を路上生活者に開放し、臨時、軽易な仕事の提供を行う事
  8. 長期化、高齢化し就労困難に陥った路上生活者に対し福祉事務所窓口での対応を積極的に行う事
  9. 地域生活移行支援事業の平成20年度からの窓口閉鎖決定について説明を行う事、また本事業の発 展をどのような形で実施するのか早急に方針を打ち出す事

以上