自立支援センターの効果について(数値分析)その1
笠井和明 本格的な自立支援センターが都内において開設されてからもうすぐ一年となる。現在、新宿寮、台東寮、豊島寮と3つのセンターが通年的に開設され、稼働中であり、当初計画通りに事が進めば、年度内までに残り2カ所が設置され、計5箇所のセンターが来春以降はフル回転する事となる。 自立支援センターは周知の通り「自立支援事業は、自立支援センターで実施する事業で、原則として緊急一時保護事業利用者で、就労意欲があり、かつ心身の状態が就労に支障がないと認められる者を利用対象者として、宿所・食事等の提供、生活・健康・職業・住宅等の相談及び指導等を行うことにより、利用者の就労による自立を支援することを目的とする。」(路上生活者対策事業実施大網)事業を行なう事を目的とした施設である。そして昨年11月より本年8月月末まで台東寮370名、新宿寮198名、豊島寮(本年5月開設)147名、計715名が東京23区の福祉事務所を通じて入所し、自立支援事業を受ける事となった訳である。そしてこの715名の内、既に(8月末時点で)519名が退所し、それぞれの事業の結果が判明するに至っている。 この事業の目的から照らした場合、自立支援事業の「効果」を計る物差は、どれだけの人が就労自立を果たしたか、という一点に尽きるだろう。もちろんセンターを卒業しアパートで通勤していたものの、その後の職場のトラブル等々で再び野宿生活に戻ってしまっている人々も少なからずいる事は事実である。が、それは「就労自立後」の諸問題であって当事業の範疇外であると言えよう。もちろん「アフターフォロー」の必要性がないと主張する訳ではないが、一生涯自立支援事業がついてまわる(ある意味では監視され続ける)のもいかがなものかと考えるので、たとえそういう人が多くいたとしても、その事実だけをもって自立支援事業の「効果」に疑問を投げかけるのはどうかと考える(この問題は別の方策を考えるべきと私は考える)。自立支援事業の目的は「就労自立を支える」ことである以上、その「効果」という場合は、入所者の内、どれだけの人が就労自立(すなわち住宅確保しての就労、もしくは住込み就労)にまで至ったかを基準にすべきであろう。 さて、全体で40.1%と出たこの自立率の数値は果たして低いのか、それとも高いのか? 問題提起から先に言うと、私は「利用状況」の統計を見たり利用した人の話しを聞きながら自立支援センターの実績について疑問に思っていた事が二つある。一つは何故、台東寮の「実績」が他の寮に比較して低いのか?という点と、就職率と自立率の落差は何故か?という疑問である。 まず一点目の台東寮「実績」の悪さであるが、370名入所の内、入所者就職率(延べ)が68.1%と他所と比較しても2、3割低く、また、退所属性でも就労自立の可能性なしー自立困難者が退所者中の23.1%を占め(新宿寮は11.6%、豊島寮は4.2%)、結果自立率は31.1%、(病気退寮を除いた)自立率も32.6%でしかない。新宿寮と豊島寮の自立率平均が47.3%(病気退寮を除いた自立率は49.8%)であるから、この2箇所と比較しても約2割近くも差がある。この開きをどう見るか、考えられるのは、当事者の目的に沿った入寮が出来ていない、施設管理者(相談員も含めた)質が相対的に悪い、などが考えられる。(3施設とも管理する社会福祉法人は別である) 次に、就職率と自立率の開きの点だが、台東寮を除いて、新宿寮、豊島寮とも入所者就職率はある意味驚異的ともいえる数値を残している。就職延べ人数なのであるが、新宿寮は108.1%、豊島寮は91.2%と、ほとんどの人が入寮中に就職出来ているという数値である。就職者実人員は「利用状況」統計には現われてはいないが、「新宿寮利用実績」の統計を見ても、全体で(実人員での)就職率は84.5%と疾病以外の人々はたいがいは就職できているという数値に行き着く。高失業率の時代において、公的な就労対策を特に施されない元野宿者、しかも平均年齢50前後の人々が、多少の支援さえあれば就労に結びつくという実績を残しているのは実に立派な事であり、野宿者の就労意欲の高さを窺い知れるものである。本人の努力はもちろんのこと、それを支える公的な支援とプログラム、そして民間の支援、また寮生との良い競争関係などが旨く合致した結果がこの結果であると考えられる。 これらの事を考える時、自立支援センターにおいて、まず「入口」を事業目的に沿ったものにしていく。当該野宿者に正確な情報を提供し、自発的に意欲をもったまま入寮してもらう努力をしていく事、また、管理法人の資質についての指導を徹底させる事、また、就職率を自立率へと極力近付けるための様々な工夫、とりわけ就労後の細かなケアー体制を作る、また住宅確保に向けてゆるやかな(実現可能な範囲)でのプログラムの作り替えが、自立支援センターの今後の課題とも言えるだろう。そして、事業内容の不備で失敗し野宿に戻らざるを得なかった人々への再チャレンジの道も当然保障すべきである。 課題が鮮明になりつつあるという意味では、事業開始わずか9か月後の自立率40.1%は「まずまず」の「成果」であると考えられる。願わくば、こういう総括、研究を行政が主体的に行ない、次なる改善点を自ら見い出して行って欲しいし、自立率も正々堂々と公表して欲しいものである。 |
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